Vol.57 上條裕美先生「学びを広げ、優先順位をつける」(2022年度全級合格)
埼玉県さいたま市/正会員/2022年度全級合格
結婚を機に自宅教室を開き、自分の子どもの友達や近所の子どもたちを相手に、のんびりペースでピアノを教えていました。3人の息子たちの子育てにしっかり向き合いたいと考えていたので、三男が中学校を卒業したら、自分の勉強を再開しようと思っていました。
勉強を再開した頃、一人の生徒さんから「コンクールを受けてみたい」という相談があり、それならもう1人の上手な生徒さんと二人で、デュオに挑戦したらどうかとお話させていただきました。そして、そのデュオでピティナに挑戦してみたところ、幸いにも入賞することができました。「来年も受けたい」となり、次年度もチャレンジしましたが、次は入賞できませんでした。生徒さんは、私が言った通りにちゃんと頑張ってくれたのに、入賞できなかったのです。その時、自分の指導力不足を痛感し、指導者ライセンスの受検へと踏み切りました。
まずは自宅で取り組みやすい筆記試験とレポートから始めました。久しぶりに楽典や和声の本を見直して勉強することは、新鮮で楽しかったです。筆記試験には、和声やアナリーゼ以外に「生徒にどのようなアプローチをするか」といった具体的な指導法を問う問題も出題されました。違った角度から指導法を考える、良い機会になりました。
指導実技試験は、初めて会ったモデル生徒さんを相手に、限られた時間内でレッスンする、という試験です。実際の試験の時、私は事前に勉強してきたことを話すことにほとんどの時間を使ってしまい、モデル生徒さんのピアノを聴く時間が、ほんの少しになってしまった、ということがありました。試験後のディスカッションで「自分が勉強したことばかりを話していないで、そこにいる生徒の演奏についてアドバイスをしましょう」と審査員の先生に指摘していただきました。曲について調べ、アナリーゼすることは大切ですが、生徒の演奏をよく聴き、観察して、時間内にポイントを伝え、その生徒が何か一つでもいい方向に変わったと実感できるようなレッスンをしなければならない、と気付くことができました。
指導実技試験の対策としては、渡部由記子先生の公開レッスンや、金子勝子先生、松本裕美子先生、多喜靖美先生のレッスン見学に伺ったり、eラーニングを活用したり、指導実技の聴講に行ったりしました。特に印象に残っているのは、松本裕美子先生のレッスンです。「この曲のここがよくなるように、今週は家でどんな練習をしてきますか?」というように生徒に問いかけ、生徒自身に課題を考えさせるレッスンをなさっていました。
そのレッスンに感銘を受けたことがきっかけで、松本先生が主催する「クロワール」というピアノ指導者のための講座に通い始めました。全6回のセミナーで"オリジナルの導入教材を作る"というものでしたが、自分の教室のポリシーや目標、また、何を教えたいのか、を考えるよい機会となりました。
当時、私は多くの指導法セミナーに通っていましたが、行けば行くほどレッスンでやりたいことが増えてしまい、40分ではレッスン時間が足りない、というような状況に陥っていました。クロワールで学ぶうちに、自分の中で「毎回やりたいこと」「時々やりたいこと」など、優先順位をつけてレッスンができるようになりました。
またレッスンでは、「音符カード」や「指番号」のトレーニングに細かいステップを設定し、一つ一つ合格していくことで、生徒さんが達成感を味わえるような工夫をしました。そして、その進捗状況を表に記入することで、保護者の方にも上達していることが一目でわかるようにしています。この積み重ねで、生徒さんたちの譜読み力が上がり、教室全体の力が底上げできたように思います。コンクールにも毎年数名が入賞できるようになりました。
地域での音楽活動も大切にしていきたいと考えています。次男の高校のPTA役員で立ち上げたコーラスの伴奏をしており、老人ホームや小学校へコンサートに伺っています。
自分の演奏をもっと磨きたいと思い、多喜靖美先生のレッスン見学に伺ったのを機に、ジャスミン音の庭室内楽クラスに通っています。一流の演奏家である先生方に共演、指導していただける時間は何にも変えられない貴重な時間となっています。
また、松本裕美子先生が立ち上げたボヌールという月1回の弾きあい会にも参加しており、毎回ピアノ講師仲間で楽しい時間を過ごさせていただいております。ボヌールの仲間には、ライセンスの演奏実技が合格するまで、何度も試験曲を聴いていただきました。いつも優しく聴いてくださり、励ましてくださったメンバーには感謝の気持ちでいっぱいです。そして、これからも一緒にピアノを楽しんでいきたい大切な仲間です。
8年前に指導者ライセンスの勉強を始めた頃は、ピアノ指導者仲間の交流というものはほとんどありませんでしたが、松本裕美子先生や多喜靖美先生のレッスン見学がきっかけで、勉強会や室内楽に参加し、ピアノ仲間や友達が増えたことが、自分にとっての大きな変化の一つです。
指導者ライセンスを受けるかどうか迷われている方がいらしたら、受検することをお勧めします。受検を通して、多角的に指導法を考える機会をもつことができ、指導の幅が広がると思います。
また、私は実技試験はオンラインではなく、全て対面で受検しました。特に指導実技試験は対面での受検をお勧めします。他の受験生がどのように指導するのかを見ることができ、とても勉強になったからです。ピアノ講師は、自分以外のレッスンを目にすることはあまりありませんが、他の方のレッスンを見ることで、自分のレッスンをより客観的に見ることができるようになると思います。