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「学校」のようなピアノ教室(執筆:齋藤朝子)

指導のいろは
「学校」のようなピアノ教室

執筆:齋藤 朝子

「あースッキリした!先生に話してよかった!」と言って今日も生徒さんがレッスン室の扉を閉めました。「学校」は子供たちが長い時間を過ごす場所です。学校が楽しい!それは素晴らしいことだと思います。ですが、学校という場所で悩み事を抱えていたり、学校の授業が大変、学校にはいきたいけれど心配なことがあるという生徒さんがいる現状を少なからず目にします。

たくさんの生徒さんと接している中で、ピアノという習い事に対して、一人ひとり目的が異なること、例えば、先生に話を聴いてもらいたいなど、個人レッスンだからできること、生徒さんの希望に応える教室があってもいいのではないかと感じました。

1.学校のようなピアノ教室

学校という場に馴染めない、学校には行きたいけれど登校することにとても勇気がいる生徒さんがいます。多くの子どもが学校に行く時間に自宅で時間を過ごす生徒さんや保護者にとって、週に1度のピアノレッスンはとても楽しみなお出かけのようです。

決まった曜日と時間にお稽古にいくことは、1週間の生活が整います。日が暮れる時間が早くなったね、まだ明るいよ!、蕾が咲いてきたね、とレッスンの道中で季節の変化も感じられます。毎日登下校する中で感じる気持ちをピアノ教室に通うことで、学校と同じ体験ができると思います。

学校と同じようにピアノ教室でもルーティンがあります。まず教室に入ったら手を洗い、バックから教材を準備して、足台椅子をセット。整ったら目線を合わせて「よろしくお願いします」。このルーティンは学校と同じです。

ピアノ演奏では、「今週はこれができるようになったね!じゃあ次はこれも頑張ってみよう!」と、生徒さん1人の【これまでとこれから】をずっと見守れる1人担任制を活かしてレッスンを進めています。

1週間の練習スケジュール表も細かく書いていきます。ピアノの練習を午前中にやりましょうと声をかけ、毎日コツコツ練習をしてお稽古に来ることも目標の一つです。

私自身、中3、小5の娘がいます。小学校に入学したばかりは馴染めず不安定になり学校に行きづらいこともありました。その時、保護者様の気持ちも経験することができました。本来学校にいる時間を親子でじっと自宅で過ごすことは何とも言えない大変さがありました。

練習スケジュール表の一例
練習スケジュール表の一例
2.「聴く」という姿勢

講師が生徒さんのお話を聴く、寄り添いたいという姿勢を示すことは、レッスンを円滑に楽しく進めていく上でとても役に立ちました。親や学校の先生には話しにくいこと、悩み事をピアノの先生に話すことで自分の考えをまとめて「また明日頑張ろう!」と思える時間になれば何よりです。

また、練習のサポートをしてくださるお母様の気持ちを時々お尋ねし、共感することも大切にしています。「今日は嬉しいことがあったのかな。表情が生き生きしていますね」「今日は気持ちが乗らない日かもしれませんから、生徒さんにできることを選んでもらってレッスンを自主的に組んでもらいましょう。私たちはそれに付き合うことも大切ですね」と声を掛けています。

毎週、大きな心で生徒さんを見守り、気持ちに寄り添っていくことを続けていくと、生徒さんの中で、ピアノ教室への安心感が育っていくようです。生徒さんの居場所としてのピアノ教室も一つの在り方だと日々感じています。

ピアノがきっかけで娘が学校に安心して通えるようになったエピソードもあります。「学校は休みたいけど、家でピアノを弾きたいな」と小1になったばかりの娘が話してきたとき、私は寄り添いました。家ではピアノを弾いていますと担任の先生に話したところ、先生の計らいで、授業中にコンペの曲を披露する機会を先生が作ってくださいました。この時、クラスのみんながブラボー!をしてくださり、アンコール!と合唱してくれたようです。お友達の顔が怖く見えるといっていた娘が、この日から自信を持って毎日通えるようになりました。

3.「できた!」達成感を育むレッスン

学校のお勉強についていくことが大変という生徒さんもいらっしゃいます。どうせできない、と否定的な気持ちになっている生徒さんに、ピアノレッスンはとても良いと思っています。個人レッスンは、誰とも比べない「自分ものさし」で成長を喜びあえます。細かくレッスン記録を共有すると、「この間は難しかったけど今日はこんなにできるようになってるね!」がたくさん見えてきます。褒め褒めチャンス!と講師は思いっきり喜びを表します。

練習スケジュール表の一例

年に1度の発表会では「去年よりここが良かったよ!かっこよかったなぁ!」を繰り返していくと、「私は僕はピアノができるから大丈夫!」と自信を持てるようになります。

学校のお勉強で躓いているところをお聞きし、ピアノに繋げていくことも重要と考えています。例えば、ものさし定規のメモリを数えるのが大変な子は、五線譜の線間を数えていくことが難しいようです。アナログ時計の読み方も五線譜の読譜ととても関連があります。読譜はピアノレッスンの大切なところなので、保護者の方から普段の様子や学校のお勉強の様子を丁寧にヒアリングをし、「どこで」「どんなこと」が大変なのかを一つひとつ紐解いていきます。

ピアノ教室は個人レッスン。その子がわかるまで、何週にかけてもじっくり時間を使えることも、「できた!」につながります。

練習スケジュール表の一例
さいごに

ピアノ教室が、生徒の皆様の希望に寄り添える場所、安心して喜びを持って通える、毎回達成感が感じられる場所であるように、講師としての学びも喜びを持って続けています。レッスンのない時間に保育園で勤務をした経験はとても良かったです。子供の喜ぶ言葉がけ、やる気スイッチの入る瞬間を先生がたくさん仕掛けることを学ぶことができました。

話を聴く技術としてコーチングもたくさん取り入れています。生徒さん、保護者様が自ら考えをまとめていくお手伝いをするのも講師としてとてもやりがいを感じます。一人ひとりの生徒さんがピアノを通して幸せになれるような教室をこれからも目指していきたいと思います。

齋藤 朝子
さいとう あさこ◎国立音楽大学卒業、同大学大学院修了。ピティナ指導会員、日本音楽教育学会会員。ピティナ指導者賞受賞。ブルグミュラーレッスン賞受賞。ベーテン音楽コンクール優秀指導者賞受賞。東京都板橋区にてクローバーピアノ教室主宰

指導のいろは
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