発表会アンサンブルステージの作り方(執筆:塚田めぐみ)
執筆:塚田めぐみ
「普段はマンツーマンレッスンなのに、発表会での合唱はどうやって練習しているの?」
「グループレッスンしていないのに、どうやって発表会でリトミックのグループ発表をしているの?」
日頃はマンツーマンレッスンの音楽教室を一人で運営・指導していても発表会ではマンツーマンの枠を超えたグループ発表のステージを作りたい、というピアノの先生のお声は少なくありません。ここでは、これまでに私が実施した発表会イベントについて紹介します。
リトミックや合唱など、普段からグループレッスンやアンサンブルを実施できたなら音楽の学びがより豊かになるのはわかっているけれど…
- レッスン室のスペースが十分でない
- 生徒さん同士の時間の都合が合わずグループレッスンを組むことが難しい
- 生徒さん同士の習熟度が異なる中での課題の設定や選曲が難しい
など、悩んだことはありませんか?
年に1回の発表会でのグループステージなら、前述の問題にとらわれることなくアンサンブル・グループ発表が可能です。発表会の時期限定なので参加者にとっての参加のハードルが低く、気軽にアンサンブル体験をするチャンスです。
難しいことは何もありません。発表会前の1~3ヶ月、普段のマンツーマンレッスンの中でアンサンブルのパート練習を個別に実施、発表会当日にステージを使って全員揃ってリハーサルするだけです。コンクールではないので、あくまでお楽しみのステージと考えてみてください。
全体練習が当日のみ、という条件の中で最善のステージにするため、準備の段階でいくつか工夫をしています。リトミックと合唱、それぞれの事前準備は下記の通りです。
リトミックを取り入れる目的の1つに、音感・リズム感の習得があります。そのために大切なことは、毎日の繰り返し練習です。週1回のレッスンだけでなく自宅での練習も促せるよう、練習用の音源を作成し保護者と共有しています。
ステージを成功させるためは、入退場やお辞儀の練習も欠かせません。入退場・お辞儀共に音楽を決めて、「この音楽が聞こえたら、歩くよ」「この音で気をつけピッ!次の音でお辞儀だよ」とお約束しておくのがポイントです。
個別レッスンの時に「発表会の日は、他のお友達も一緒に歌うよ」と声かけし、複数名でのステージをイメージできるようにしておきます。マンツーマンレッスンの様子を動画で撮影しておき、レッスンの際に他のお友達の様子をそれぞれ見ることができるようにしておくと、心の準備がしやすくなります。
当日は初めて会うお友達と一緒に発表することになるため、子供達も保護者も緊張や不安があるものです。そこで、いきなりリハーサルを始めるのではなく、まずは交流の時間を設けています。みんなで音楽に合わせた手遊びをしたり、クイズをしたり、互いに協力しあえる関係を築きます。また、このタイミングで当日アシスタントに入ってもらうお手伝いの先生やスタッフさんとも交流しておくことで、スムーズにリハーサルに移行することができます。
ピアノ演奏の際にうまく息が流れず音楽が停滞してしまう悩みのある方は主旋律、内声のコントロールが甘くなってしまう方はアルトパート、など各自の課題に応じてパートを選びます。「楽しみたいから」「経験したいから」「〇〇の側面で音楽を学びたいから」など、それぞれが合唱に参加する目的を明確にしておくことで、一人一人にとってステージを「成功」に導くことができると考えています。
普段ピアノレッスンを受講している生徒さん全員、歌が好きとは限りません。いきなり一人で声を出すことに抵抗を感じる方もいるかもしれません。まずは心の中で歌うだけでもOK。講師が積極的に一緒に歌うようにしています。
当日は各パート1名ずつプロの声楽家や声楽科の音大生にエキストラに入ってもらえるよう手配しておくと当日のハモりも安心な上、プロとの共演も貴重な経験となり参加者の満足感にも繋がります。
プレッシャーなく楽しめるよう暗譜はせず楽譜を持って歌うスタイルを選択しています。一般的な合唱団と違い、発表会での合唱ステージは皆の衣装がバラバラですが、お揃いの楽譜カバーを準備して統一感が出るように工夫しています。お揃いのアイテムを持つことで、不思議と演奏も1つにまとまるような気がします。
実際のこれまでの演奏曲を一部、ご紹介します。
四分音符を「たん」四分休符を「うん」と言いながら、皆でリズム打ちをします。リズム感のための練習ですが、2歳後半から無理なく出来る活動なので、年少さんが多い時にもおすすめです。
(参考)NEW ピアノスタディ レパートリー1(ヤマハミュージックメディア刊)
1グループの人数は5~10名程度。お友達同士で助け合いつつも全体に埋もれることなく1人1人が主役である自覚を持ってステージに立つことができます。
ドはおひざ、レは腰、ミはお腹・・・というように、音とポーズを関連づけた音感訓練のリトミックです。ドレミの歌を歌いながら身体表現することで、ドレミ唱と音感の習得を目的にしています。
秋の発表会の時に季節に合わせた曲を、ということで子どもたちから希望を募って選曲しました。覚えやすいメロディと可愛らしい歌詞の曲です。子どもたちから音の動きや曲の雰囲気に合わせた振り付けを提案してもらい、音楽を体で表現する良い経験になりました。
自分たちで考えた振り付け付きで歌っています。
「毎日ピアノ弾くのって 意外と大変なんだよ」と始まる曲。それでもピアノが大好きだから練習するんだ、という子どもたちの気持ちを代弁しつつ鼓舞してくれる曲です。
(参考)俊太郎と賢作が贈るハッピーソングブック「げんきにでてこい」(カワイ出版刊)
合唱曲の選曲は、なるべく参加者の希望を汲み取るようにしています。
ベードーベンの第九のメロディに日本語の歌詞がついたアレンジです。皆が知っているメロディで取り組みやすく、子どもたちにとっても名曲を歌う良い経験になりました。
(参考)合唱ピース OCP−027 混声4部合唱 希望の歌~交響曲第九番~
発表会の時期だけ特別に組織するアンサンブルのメリットを振り返ってみます。
普段から毎週合唱の練習・・・となると少し敷居が高くても、発表会前の1~3ヶ月だけ個別で練習し全体で集まるのは当日だけ、というスケジュールなら気軽にアンサンブル・合唱の体験ができます。
ピアノを始めて間もない時期だと、発表会でのピアノ演奏時間は30秒、なんていうこともよくあります。ピアノだけでなくリトミックのステージがあればより長い間ステージに立つことができて、遠方から応援に駆けつけてくださるご親戚やお客様にも喜んでいただけます。
リトミックや合唱の活動の中には、ピアノのテクニックにつながる発見がたくさんあります。
「実際に歌ってみよう」「オーケストラの演奏を聴きに行ってみてね」など、レッスンで声かけをする先生もたくさんいらっしゃると思いますが、発表会で経験したステージを振り返りながら「みんなで息を合わせて歌い始めた時のブレス、覚えている?」「合唱の時の四声のハーモニー、素敵だったね」というように展開してゆくことができるようになります。
連弾や重唱は1人1パート演奏するため、演奏者にはそれなりの練習量や完成度が要求されます。でも、人数が多いアンサンブルなら練習不足や技量不足を皆で補い合うことができます。練習の負担が少なく、本番のプレッシャーなしでアンサンブルを体験できる機会は発表会ならでは、です。(その代わり、それぞれ本命のソロ演奏は練習頑張ってくださいね!)