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オンラインレッスン教材(執筆:野間尚美)

指導のいろは
オンラインレッスン教材

執筆:野間尚美

オンライン教材を作るきっかけとなったのは、2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大した直後、教室のオンライン化について学ぶ講座に入会したことでした。あの頃、初めて外出自粛要請が出され、ピアノレッスンも対面ではできない状況になり、急な出来事に不安でいっぱいになったのを今でも覚えています。

そんな時に出会ったのが、教室のオンライン化についての講座でした。「これからはピアノ教室もオンライン化していかなければいけない!」そんな思いで講座での学びを決意しました。そして講座の中で「Udemy」というアメリカ発、世界最大級のオンライン学習プラットフォームの存在を知り、「教材を作るべきだ!」という自分の中から湧き出るものがあり、オンライン教材を作成することにしました。そうしてできたのが初心者向け動画教材「おうちでピアノレッスン」です。

1. 制作の過程

数分程度の動画をたくさん作成し、1つのコースとして作り上げていきました。動画については、教室のInstagramに載せるために作った経験はあったものの、きちんと教材として販売できるようなものを作るのは初めてで、大変な作業でした。動画編集の方法を調べて学び、少しでも時間を見つけては教材制作に取り組みました。画質はもちろんのこと、音質のクオリティの高さを特に求められたため、ホワイトノイズが入らないようエアコンを切って撮影したり、外で救急車が通りそのサイレンの音が入ると撮り直しなど、一筋縄ではいかないことばかりでした。

制作に使った機材は、WindowsPC、iPad、iPhone、電子ピアノです。iPhoneで撮影し、PCやiPad、iPhoneで編集しました。最近は、スマートフォンやタブレットで簡単に動画編集ができるアプリがたくさんあります。そのおかげで、動画編集の素人である私でも、ある程度のクオリティのものを作ることができました。また、音楽著作権にも注意して制作しました。すでに著作権が切れている楽曲を選び、教材に取り入れていきました。

2. オンライン教材のメリット・デメリット
教える側
メリット
  • 一つの動画で無限にレッスンできる→効率◎
  • 好きな時間に仕事ができる
  • レッスン収入とは別の収入が得られる
デメリット
  • 動画教材を作成するのに時間がかかる
  • パソコンや電子機器の操作スキルが無いと難しい面がある

教える側のメリットとしては、「一つの動画で無限にレッスンできる」「好きな時間に仕事ができる」などが挙げられると思います。オンライン教材を作る前から、音楽の基礎知識など、生徒さんが違ってもお話しすることは同じ内容については、動画に撮ってそれを見ることができる環境があれば、お互い便利な上に、伝え忘れるなどの漏れがないなと考えていました。

実際に教材を作ってみて、一つの動画で数百人の人が学んでくださっているという状況に、オンライン化の可能性を改めて感じています。そして、自分自身が好きな時間に仕事をすることができるということも良い点です。実際私は、子どもとの時間も大切にしつつ、空いた時間を活用して制作することができています。加えて、日々のレッスン収入とは別に副収入を得られる可能性もあります。一方のデメリットは、「動画教材を作成するのに時間がかかる」「パソコンなどの電子機器の操作スキルが無いと難しい」などが挙げられます。

習う側
メリット
  • 好きな時間・場所でレッスンを受けられる
  • 分からないところは何度でも見直せる
  • 紙媒体では分かりにくい内容も理解しやすい
  • 気軽に始めやすい
デメリット
  • 練習のモチベーションを維持するのが難しい
  • 個人に合ったきめ細やかな指導を受けたい人にとっては不十分な場合がある

次に、習う側のメリットについて、「好きな時間・場所でレッスンを受けられる」「分からないところは何度でも見返すことができる」「紙媒体では分かりにくい内容も理解しやすい」「気軽に始めやすい」などが挙げられると思います。仕事が忙しく、なかなかレッスンに通う時間が取れないという人でも、オンライン教材なら好きな時間・場所でレッスンを受けられます。また、何度も見返すことができるので、苦手な箇所を重点的に学ぶことも可能です。私のオンライン教材では、音符の読み方をアニメーション動画にし、弾いている鍵盤とその音符に色をつけるなどしながら、音符と鍵盤の位置関係をより分かりやすく説明できるよう工夫しました。

学ぶ側にとって、教本やカードといった紙媒体での学習とはまた違った気づきがあるかなと思っています。手の動きなども、写真より実際の動きを見ることで、理解はより深まっていきます。また、ピアノに興味はあるものの、実際にピアノ教室に通うには一歩踏み出せないという方にとっても、動画教材で気軽に体験してみることができれば、よりピアノを身近に感じてもらえるのではないでしょうか。価格も通常のレッスンより安価ですので、その点でも始めやすいかもしれません。

オンライン教材で学ぶことのデメリットとしては、「練習のモチベーションを維持するのが難しい」「きめ細やかな指導を受けたい人にとっては不十分な場合がある」ことです。オンライン教材については、ピアノを習う前のきっかけとして利用したり、普段のレッスンに補助的に取り入れる、または動画レッスンと通常レッスン(対面またはオンライン)を併用すると良いのではないかと私は考えています。

3. 普段のレッスンにオンライン教材を活用?

生徒さんの興味・関心を引いたり、理解を深めてもらうためにオンライン教材を活用することもできます。最近はSNSで、独自の動画教材、パワーポイントやkeynoteなどで作成した教材(タブレットで学習できる音符読みの教材など)を投稿されている先生方をよく見かけます。どの教材もオリジナリティに富んでいて、先生の心のこもった教材でレッスンを受けられる生徒は幸せだなと感じます。

オリジナルの動画教材を作ることで、教室の独自性を打ち出すことができますし、生徒がより学びやすい環境を整えることにつながると思います。私も、読譜の方法について作成した動画を教室に通ってくださっている生徒にお配りして、普段のレッスン+αといった形で補助的に使っています。動画教材は見ていて楽しいですし、画像の背景を変えて季節感を出してみたり、かわいいイラストが入っていたりすれば、生徒さんたちもワクワクしながら学べるのではないでしょうか。

4. 生徒募集に動画を活用する

オンライン教材制作は難しそうと思われる方は、最初の段階として、教室の紹介動画を撮って生徒募集に活用してみてはいかがでしょうか。レッスン室や実際のレッスンの様子などを撮影し、ホームページやSNSに掲載してみるのです。教室を探している人が気軽に先生のレッスンを見ることができる環境があれば、お問い合わせにも繋がりやすいのではないかと思います。

実際に私の教室に通ってくださっている大人の生徒は、体験レッスンへ訪れる前に私の動画教材を見ていたそうです。動画で先生の指導の雰囲気が分かっていればレッスンのイメージがつきやすいですから、安心して体験レッスンに申し込む事ができるのではないでしょうか。最初は自分を撮ってそれを公開するなんて!!と、思う方もいらっしゃるかもしれません。私自身もそうでしたし、今でも恥ずかしいという気持ちが無くなったわけではありません。最初は顔出しをしなくても良いと思います。先生が話している声や手元を撮影した動画でも、先生の雰囲気、人柄は伝わると思います。

レッスン風景の動画とは別に、先生の自己紹介動画もおすすめです。レッスンへの思い、どんな方針でレッスンをしているのか、またどのようにピアノと関わってきたのか、という先生ならではのストーリーをお話することで、「先生だから習いたい」という生徒がきっと現れると思います。もちろん、ブログなどに書く、というのもとても良い方法だと思いますが、直接先生の雰囲気が伝わる動画の方がより人柄が伝わるのではないでしょうか。

5.自分だからできることで貢献したい

私は、「動画」でピアノを始めたという経験を持っています。幼いころ私は人見知りが激しく、体験レッスンで先生と上手く接することができず、ピアノ教室に通うことができませんでした。その後、キーボードに付いていた弾き方の解説ビデオを見て、ピアノを弾き始めました。初めて1曲弾けたときの喜びを今でも鮮明に覚えています。ですが、始めたのも遅く、半分独学のような状態だったため、音大を目指す際はできないことを克服するのに苦労し、大学に入ってからもコンプレックスを抱えていました。ピアノを教え始めてからも「動画」で始めたという過去は、なかったものとして自分の中にしまい込んでいました。

今では、その経験でさえも私に必要なものだったのだ、と思えるようになりました。それは、オンライン教材を作ることができたからです。オンライン教材に抵抗感がなく、作りたい!と直感で感じたのも、それまでの経験があったからだと思います。今まで、なかったことにしていた出来事の中に、私の大切にしたい思いがあることに気づくことができました。過去の自分のように何か事情があってピアノ教室に通えない人でも、動画教材で気軽にピアノを学べる環境を作りたい、ということです。

過去の経験から、動画でピアノを学ぶ人、キーボードや電子ピアノで練習する人や、幼少期から始めていない人の気持ちに寄り添う、といったことが私だからこそできることだと思います。私は、ピアノ演奏で輝かしい経歴を持っているわけではありませんし、街の小さなピアノ教室の先生をしている人間です。ですが、作成したオンライン教材を気に入ってくれる人、必要としてくれる人ヘ向けて、何かお役に立てれば…そんな思いでオリジナル教材を制作しています。一人でも多くの人に、「1曲弾けた時の喜び」を感じてもらえたなら、こんなに嬉しいことはありません。

おわりに

動画教材を作ることが楽しいと思える人、そうではない人、それぞれにタイプがあると思います。私はもともと動画編集や創作活動が好きだったこと、そういった生い立ちもあり、オンライン教材を制作したり動画を取り入れたレッスンを始めました。10人の先生がいたら10通りの教え方、教室の考え方があるはずです。学ぶ側のニーズも様々です。実際に普段レッスンをする中で、生徒さんの希望の多様化を感じています。ピアノ教室がそれぞれに多種多様な価値観のレッスンを提供することで、学ぶ側の選択肢が増えれば、より多くの人が音楽学習を身近なものに感じられると思います。

最近では、従来のピアノレッスンの枠を超えて、様々なアプローチからピアノレッスンを行っている先生方もいらっしゃいますね。例えば、セラピーの視点を取り入れた音楽教室、オンラインレッスンに特化した教室、音楽以外の何かを掛け合わせて2科目以上のことが学べる教室…などです。それぞれの先生らしいレッスンをして、そのレッスンに共感する人が集まってくれたら、これほど嬉しく幸せなことはありません。私も日々生徒さんから学ぶことばかりで、「私」の教室に来てくださっている生徒さんは何を求めているのかを考え、自分の教育方針も大切にしながら、より良い教室のあり方を模索し続けています。十人十色の音楽教室によって、音楽の輪を広げていけたら素敵ですね。

野間尚美
のまなおみ◎エリザベト音楽大学卒業。カワイ音楽教室講師を7年務め、現在野間ピアノ教室を主宰。キッズコーチング®アドバイザーの資格を活かし、生徒の個性を大切にしたレッスンを行っている。ピティナ新人指導者賞受賞。世界最大級オンライン学習プラットフォーム、ベネッセUdemyにてオンラインピアノ学習教材「おうちでピアノレッスン」を開講。現在受講生はのべ800名以上。
野間ピアノ教室 HP

指導のいろは
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