生徒の評価の意義と方法(執筆:冷水香織)
執筆:冷水香織
ピアノのレッスンは、「生徒の演奏を聴き、良いところや改善するところを見つけ指導する」の繰り返しです。生徒の成長を感じることが出来た時、生徒や保護者、指導者もきっと嬉しくなります。レッスンは、どうしても指摘することが多くなりがちですが、評価をすることで生徒のやる気アップにも繋がっていくのではないでしょうか。
私自身もレッスンを受けている時に、多数の指摘があった中、一箇所でも評価していただけると励みになりました。努力してきたことが認めてもらえると、子どもでも大人でも嬉しいものです。また、「出来た」の積み重ねが自己肯定感を高めていくのではないでしょうか。
ただし、練習不足の生徒や指摘が改善されない生徒などの評価には悩むことがあります。指導者としては、適切な評価が必要となります。年齢や性格、ピアノ歴の長さ、ご家庭の方針など、様々なタイプの生徒さんに対して、普段のレッスンの中で、どのように評価していくのかを考えていきたいと思います。
まず、適切な評価を行うには、指導者のスキルアップが不可欠です。さまざまなタイプの生徒に対して多角的な指導や判断ができるためには、指導者は学び続ける必要があります。私自身も、指導セミナーへの参加やeラーニングの活用、バスティン研究会の例会、所属している楽器店での勉強会、指導者仲間との勉強会などに積極的に参加し、自己研鑽を積んでいます。勉強してもまだまだ足りない!と思うことばかりです。
数年前、指導に悩んでいた時に、楽器店で指導者ライセンスの筆記試験のチラシを見つけ、「これだ!」と思って申込をしました。その当時、指導を始めて10年程になり、コンクールに参加する生徒が増えてきましたが、課題曲の作曲家らしい演奏とは?、時代ごとの弾き方は?など迷うことばかりで、力不足の状況でした。以前から、楽曲について自分なりに分析したり勉強しているつもりでしたが、筆記試験を受けると自分の勉強が浅く全然足りていないことに気付きました。また、和声や音楽史などの学び直しにもなりました。何冊もの本を買っては何度も読み、問題を解いていくうちに、その当時不慣れだった分析も今では幾分かはできるようになったかと思います。学び続けることがいかに大事かと体感しました。
さらに、一緒に勉強する仲間との出会いも大きな刺激となっています。それからマイペースながら、演奏実技や指導実技も受けています。指導実技では、先生方からの審査とコメントを通じて、自分の指導の長所と短所について多くの学びを得ることができました。また、他の先生方のレッスンを見学する機会もあり、指導の方法や言葉がけ、レッスンの展開など、さまざまなことを学ぶことができました。
指導者の言葉は生徒にとって影響が大きいと思います。レッスンで指導する際や評価を行う際に、生徒が理解しやすい言葉を使うためにも、豊かな語彙力を持つことが必要です。また、生徒のタイプによっても言葉遣いを工夫しています。
さまざまな学びを通じて、多くの指導方法を習得し、自分の指導理念や方針をしっかり持ちながらも、生徒一人ひとりと向き合いながらレッスンを行うことを心がけるようになりました。
練習不足の生徒に対しては、練習を促すことは不可欠ですが、ただ叱るだけでレッスンが終わってしまうと、双方にとって楽しくありません。レッスンの中で、その生徒が興味を持つことを見つけ、その生徒の良いところを引き出すことも時には重要だと考えています。
この生徒は、練習の習慣がなかなか身につかず、生徒とそのお母様と話し合いながら進めています。最近では、ハーモニーの変化を聴き分け、「これが素敵なんだよね」と感じたり、曲の終わり方にこだわりを持ったりしています。また、美しい音色で演奏できたときには、「よく音を聴くようになったなぁ」と評価しました。
練習時間が不足していることにフォーカスすると評価が低くなってしまいますが、私はこの生徒の音楽に対する感性が育ってきたことに喜びを感じました。これは小さな進歩ですが、生徒が音楽の素晴らしさに少しずつ興味を持ち始め、私やお母様もいつか練習に励み、もっと上手になる!と希望を持ち続け、生徒を信じています。
この生徒のレッスンを受ける姿勢に、常に感心しています。楽譜には自分の言葉でたくさんのメモがあり、指摘に対しても前向きに受け止めます。すぐに改善されなくても、決して諦めず、黙々と取り組んでいます。音楽を心から楽しんでおり、上手になるためにどうすれば良いかを常に考えて取り組んでいるので、私はそれを高く評価しています。
生徒の演奏の評価について、よく弾けているのか、どのように改善できるのか、といったことについてよく悩みます。指導力を磨くことはもちろん重要ですが、指導者側からの評価だけでなく、客観的な評価を得られる場として、ピティナ・ピアノコンペティションや他コンクール、ピティナ・ピアノステップなどのステージ演奏が役立つことでしょう。
私のお教室では、ほとんどの生徒がコンクールの経験をしています。参加するからにはもちろん結果にも拘ってレッスンしています。良い結果に繋げたい!と高い目標を持つと、自分の演奏は今どんな状態なのか、コンクールの日までどのように練習していくべきかなど、ピアノと真剣に向き合って努力出来るからです。努力が出来ることも評価の一つだと思います。また、楽曲や作曲家について興味を持ち調べたり、私が指摘したことをノートにまとめて演奏にどう繋げるかと考えていたり、色々と工夫していることも評価しています。
努力の結果、目標達成出来れば大変嬉しいことですが、全員が目標達成することは難しいのがコンクールです。ですが、コンクールを通して成長が見えたら、それは大変喜ばしいことでしょう。この経験を次に繋げていくことも大切ですね。
また、審査員の方々からの評価やフィードバックからは、多くのことを学ぶことができます。自分の努力が認められたときは、やはり励みになります。
現在、ステップアドバイザーやコンペティションの審査を務めさせていただいておりますが、実際にその立場になると一回きりの演奏で評価することは大変なことだと感じております。皆さん一生懸命演奏しますので、私も真摯に講評・評価を書かせていただいています。
生徒の評価は、指導者によって異なる視点で行われるため、それぞれの教室に特色が現れると考えています。私は演奏だけでなく、挨拶や礼儀などのマナーが身についていることや、レッスンへの姿勢や態度、練習力、集中力など、さまざまな要素を含めて評価しています。
ピアノを通じて、演奏の成長だけでなく、心豊かに成長してほしいと願っています。また、私が重視しているのは「自発性」です。生徒が受け身の姿勢にならないよう、自分自身で考えることを促しています。
年齢によっては、サポートが必要な場合もありますが、小学校高学年になる頃には、自分自身で考え行動できるようになってほしいと思っています。他人からの評価だけでなく、自己評価もできるようになってほしいのです。そして、心から音楽を楽しみ、生涯にわたってピアノを続けてくれることを願っています。
生徒の評価について考える中で、「生徒の評価=指導者の評価」かもしれないと感じました。生徒自身の努力や保護者のサポートももちろん重要ですが、それだけでは生徒は十分に成長できないと思います。指導者が適切に評価しながら生徒を成長へと導いていきたいですね。