ピティナ・指導者ライセンス
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効果的なカリキュラム(指導案)の組み方(執筆:宮本祥子)

指導のいろは
効果的なカリキュラム(指導案)の組み方

執筆:宮本祥子

「ピアノが弾ける!」を叶えることはピアノ指導者にとっての共通の目標であり、務めでもあります。ピアノ指導にあたる際、様々なニーズをお持ちの生徒との出会いがありますが、その中でも今回は、いずれピティナ・ピアノコンペティションを始めとする各種コンクールに参加する力を付ける為の指導案をご紹介します。
9年という拙い指導歴ではありますが、これまでに出会った生徒とのレッスンの中で私なりに考え、体系立てたものをまとめてみました。これから指導者を目指す皆様にとりまして、少しでも参考になりますと幸いです。

1.「耳」と「目」を同時に育てる

「耳で聞いて弾く」ことも大切ですが、「読めない」というのは、ピアノを長く続けていく上では大変なリスクとなります。
楽譜には、アーティキュレーションや強弱記号など、音符以外の情報も書かれています。音符を正しく読むことはもちろん、それらを早いうちから知っておかないと、将来的に楽譜の読み間違いや勘違いを招き、いずれ先生も生徒も大変な思いをすることになります。最悪の場合、生徒が意気消沈し、ピアノを好きでなくなってしまうかもしれません。ピアノを楽しく弾くためには、耳を育てるとともに、楽譜を正しく読むことも導入期に力を入れるべき重要なポイントだと考えます。

2.導入期の読譜トレーニング

どんな生徒でも楽譜が読めるようにするためには、先生は基本に立ち返り、目標までの道のりを生徒になったつもりで考えなければならないと思っています。
誰もが平等に楽譜を読めるようになってほしい!という強い想いから試行錯誤を重ねた結果、ほとんどの子どもたちに読譜力を身に付けさせることができるようになりました。
その方法の一部をご紹介したいと思います。

➀ドレミファソラシド・ドシラソファミレドを「耳」と「目」で覚える
たくさん歌って、体も使って覚えていきます。幼児でしたら、ドレミの歌を一緒に歌っても良いですね。生徒によっては色を塗るのもグッドアイデアかもしれません。

②線と間、音の高低の認識を定着させる
線と間の2種類の音符を認識することはスムーズな譜読みに欠かせません。音符カードを用いてゲームをしたり、音階通りに並べたり、音程を考えたりして、少しずつ楽譜を見る目を養います。

③歌いながら音を鳴らしてみる
歌いながら音階を弾いたり、楽譜を見て弾いたりします。記憶の混乱と手の崩れを避けるため、いきなり5指では弾かず、1本指(2か3の指)から使用していきます。

④見る、歌う、弾くを繰り返して記憶を定着させる
この頃になると、簡単な楽譜を見ながら音を鳴らすことができているはずです。
リズムも「たん・うん・たたたん」といったように、見て、歌いながら叩けるようにしておきます。繰り返しの練習が大切なので、一日何回だったら練習できるか生徒と相談します。

くおん出版:ドレミ楽譜出版社:ともだちカード:
<ノートの使い方(ステップ1~3)>

ステップ1
ステップ2
ステップ3
ステップ1

音階(音が順に上がったり、下がったりする音の並び)を覚えることからスタートします。ドレミファソラシドは上がっているので、先生のピアノに合わせて歌いながら、ぐーんと背伸びをする。反対に、ドシラソファミレドは下りているので、歌いながら体を小さくする。(この動きは、幼児さん達、大変喜びます!) 声をたくさん出して、体もたくさん使っていくと、楽しいですし、覚えるのも速くなります。(更にそれぞれクレッシェンド、デクレッシェンドで歌えると、自然な強弱感覚も身に付きます)
音階を覚えたら、色塗りを楽しみます。色を塗ることで、白黒の楽譜に色が生まれ、楽譜がなんだかカラフルに、楽しく見えてきますし、生徒たちはノリノリで取り組んでくれるのでお勧めです。色は大体半年ほどで塗らなくても読めるようになりますので、最初の導入期に是非取り入れて、楽譜を読むことが楽しい!とワクワクする気持ちを育てましょう。

ステップ2

早読みの訓練です。楽譜に書かれている音は、前の音と比べて上がるか下がるか、または同じかしかありません。まずはお隣同士(2度音程)と1つ飛ばしか(3度音程)を見分けられるようにし、その次に音が上がっているか下がっているかの確認をします。(ピアノで弾きながら確認すると良いです)慣れてきたら、音程を更に広げていきます。(是非お使いの教材でも音程読みを試してみてください)

ステップ3

ピアノの鍵盤には全部で8つの高さのドが存在します。その中でも最もよく出てくる5つの高さのドを早い段階で知っておくと早読みに役立ちます。楽譜に書いて、真ん中のド、高いド、低いド、とても高いド、とても低いドといった具合に、色々な高さの「ド」を認識しておくだけで、読譜が大変スムーズになります。

3.楽譜の選び方

導入期で学んだ楽譜の読み方に慣れてくると、やがて1本指弾きから5本指弾きにスムーズに移行することができます。私は、うたとピアノの絵本を使用し、「みぎ」→「ひだり」→「りょうて」の順に使いますが、生徒によっては同時に3冊使うこともあります。「りょうて」の教材に入るころには、指を見ることなく、譜面をみながら歌いながら、左右同時に弾けるようになるのが理想です。その後、更に広い音域を定着させるために、オルガンピアノやギロックの楽譜等を用いて、下第2線のド、上第2線のドまでの音に親しんでもらっています。先生が目標とする音域が網羅されている楽譜ならどの楽譜を選んでも良いと思います。

4.補助教材を用いる

幼児期、導入期は最も記憶が定着しづらいですから、念には念をいれて、補助教材としてリズムとソルフェージュ(呉暁著1~4巻)を使います。メトロノームに合わせてリズムを叩いたり、拍子を意識しながら歌ったりして、定着してきた記憶をさらに確実なものにしていきます。

5.指づくりの基本

音符が良いスピードで読めるようになったら、どんどん指を動かすことが大切です。
楽譜を読めて歌えても、実際に弾く指ができていないのでは、スムーズな成長を妨げてしまいます。しなやかに速く動く美しい指を作るためには日々のトレーニングや楽譜選びが重要と考えます。定番の練習曲「ハノン」と「スケール」を トレーニングの基本としますが、最初は、スケールで使われる「運指」はハードルが高いので、5指を無理なく使うハノンから始めることをおすすめします。さらに、ハノンの練習も段階的に行い、楽しく、無理なく活用できる仕組みを考えることが、生徒のモチベーションを維持するために必要です。
そのために、レベルに応じてスピードやリズムのパターン、出版楽譜を使い分けて基礎練習をさせるようにしています。基礎の練習を通して、美しい音色を生み出すタッチ、美しい音がわかる良い耳を育てます。

ハノンだけでも3冊用います
6.読譜スピードUp

ピティナ・ピアノコンペティションでは、4期の作品を短い期間に仕上げる必要があり、そのために速い読譜力が欠かせません。スピードを上げるには、その生徒にあった楽譜(無理なく自力で読める)で、曲数を多くこなしていくのがお薦めです。
この時期はとにかくスピードを上げることが目標ですので、1曲の仕上がりに固執せず、好きな曲をどんどん弾かせてあげると良いと思います。そうすることで、生徒自身が達成感や喜びを感じることができます。練習量が増えて自信がつくだけでなく、好きな曲を楽しく弾けるようになります。

7.4期をバランスよく学ぶ

良い手と確かな読譜力が身に付いてきたら、たくさんの曲を同時に演奏することができるようになります。この辺りになれば、余裕のある状態になりますので課題曲の多いコンクールへのチャレンジも視野に入ってくるようになります。コンクールは生徒の力を磨くのにうってつけの機会です。課題曲を通して美しい作品の数々と出会うことにより、1音1音こだわって大切に表現していく、理想の状態に仕上げていくというレッスンへ徐々に切り替えていけるはずです。
ただ、出場するコンクールは見極めが大切で、どのコンクールにチャレンジすれば、その生徒にとって今伸ばしたい力が身に付き、取り組んでおいてほしい課題も継続できるのかを考える必要があります。状況によっては、コンクール前であっても、他のことを優先させた方が良い場合もありますし、良い判断をする為にも、先生が各種コンクールの課題曲や傾向を下調べしたり、思い切って生徒を送り出したりして、経験値を上げていくのが良いと思います。コンクールは年中全国各地で行われているので、「走りながら学ぶ」のが良いやり方かもしれません。私は生徒とともに、前向きにチャレンジしていくことを目標にしています。

8.指導目標を定める

長期的に難易度の高いコンクールに参加するためには、小学5年生までにしっかりとした基礎固めをすることが大切だと考えます。例えば、ツェルニー30番を練習する頃には4オクターブのスケール/アルペジオを把握し、インヴェンションやシンフォニアのレパートリーも何曲か持っている状態が理想です。一見ハードルが高そうに見えますが、良い基礎を身に付けておけば、将来的にストレスなく難曲にも取り組んでいくことができます。また、「受験かピアノ学習か」と勉強のためにピアノを辞めるということも少なくなるでしょう。こういったことからも、ピアノ学習に最も力を入れるのは、小学校1年生から4年生の間が最適だと考えています。
以下に、私が実際に用いているカリキュラムの一例をご紹介したいと思います。

9.楽典・ソルフェージュ力

楽典とソルフェージュの重要性を過小評価しないことも大切です。
先述したとおり、小学5年生になるまでにこれらの知識を身につけておくと、生徒だけでなく先生も楽になります。レッスンでは、5分程度でも良いので、ドイツ語の調性、音楽用語、音楽理論、楽譜の書き方等を確認する時間を設けてみてください。また、生徒が自分で調べたり考えるように導けば、更に理解が深まり成長が促されます。
唯一気を付けなくてはいけないのは、取り組んでいる作品と、楽典の内容がちぐはぐにならないようにすることです。指導者は常に、何をいつまでに身に付けさせたいのかを明確にし、その為に今どんなことを覚えてもらわないといけないのか逆算する必要があります。生徒にとっても、練習している作品にすぐに活かせる内容を覚えた方が、理解力も深まり記憶も定着しやすくなるからです。

10.楽典・ソルフェージュ力

「苦手」や「つまずき」に気付いた場合、すぐに対処することが肝要です。「できない」「苦手である」という心理が積み重なると、生徒自身にとって負担が大きくなります。苦手と向き合う時間は、生徒自身にとって辛いことですし、面倒で時間がかかるかもしれません。しかし、本人の進歩や将来のためにも、課題を克服できるまで励ましながら、一貫したサポートをすることが大切です。
時折、音符やリズムを理解することが難しくても、ご家庭で親御さんの指導のもとで弾けるようになっていることがありますが、これでは手遅れになってしまう危険があります。そのため、先生はレッスン中、片手ずつ弾いてもらったり、新曲を歌わせたりすることで、生徒がどこでつまずいているのか把握しておくことが大切です。発表会やコンクールなど、目先の目標を達成するために、今のレベルをはるかに超えた曲を弾かせることも、記憶の定着を妨げます。生徒の希望を尊重しながらも、慎重に検討しましょう。

11.ニーズに合ったカリキュラムの作り方

私のカリキュラムは、クラシックのコンクールにチャレンジしていく方だけではなく、ピアノをのんびりと楽しんでいきたい方にも応用できます。ひとつの目標がブルグミュラーです。ブルクミュラーの作品を無理なく自力で弾けるようになっていたら、レッスンを続けられなくなっても、大人になってからでも、ピアノを弾く楽しさを味わうことができると思っています。
好きな曲だけを学びたい方、ポップスに惹かれる方には、ハノン、スケール、ソルフェージュは大切に、大好きな曲のレパートリーを増やしていけるようにします。生徒の進歩状況や興味に合わせて内容を調整しながら、柔軟に対応していくと良いと思います。

12.どんな生徒を育てたいのか

カリキュラムを作成することは、生徒のスムーズな成長をサポートする為にも必要です。生徒一人一人の目標を明確にし、先生自身が「どんな生徒を育てたいのか」「自分の得意とする分野は何なのか」ということを可視化することで、カリキュラムも変わりますし、その先生・教室にしか出せない個性が生まれてくると思います。
私は現在は、「長く舞台で輝き続けられる生徒を育てたい」という想いを持っています。生徒たちが苦しんだり、嫌々ながら向き合うのではなく、練習に喜びを見いだしてくれることを願っています。

これまでに多くの生徒とピアノを通して関わらせて頂き、私自身とても成長させて頂きました。これからもどんどんカリキュラムを更新しながら生徒が輝くサポートを続けていきたいと思っています。これから指導を始められる皆様も、沢山の生徒と出会い、ご自身に合った方法を取り入れながら、自分だけの個性あふれるカリキュラムを作り上げていってください!この記事が、生徒、先生にとっても、楽しく充実したレッスンのヒントになりますように。

宮本祥子
京都市立芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業後、ハンガリーリスト音楽院マスタークラスに学費免除で推薦され修了。ピアニスト・伴奏ピアニストとして活動を続けながら、自身の主催するピアノ教室にて後進の指導にも力を入れている。2021年にはピティナ指導者ライセンスを全級取得、ピティナコンペティション、ショパンコンクールinAsia等、各種コンクールにおいて優秀指導者賞を受賞。現在、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員。
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