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初見視奏(執筆:佐々木邦雄)

指導のいろは
初見視奏

執筆:佐々木邦雄

初めて見る楽譜を演奏できるようになるためには練習が必要不可欠といわれますが、初見視奏の能力を伸ばすにはどのような練習が効果的なのでしょうか。今回は、まず、なぜ初見視奏が必要なのか、何の役に立つのかについて、音楽の基礎能力という観点から見ていきます。その上で、どのように初見視奏の練習に取り組めばよいのか、説明とともに実際の曲の例を交えてお伝えしたいと思います。

1.なぜ初見視奏が必要なのか

初見視奏、すなわち楽譜を見て弾くことがなぜ必要なのかといいますと、「音」という目に見えない世界を見える形にした「楽譜」というものに、まずは慣れなければならないからだと思います。これは本に書かれている文字を読むときに、言葉を知らなければならないのと同じです。音を聴く前に演奏する音が書かれた楽譜を、自分で読めなければなりません。そこで目に見えない音の世界が、目に見える形になっている楽譜に慣れる必要があるのです。読譜をするにあたって初見視奏は、どうしても避けては通れないものでしょう。

2.初見視奏は何の役に立つのか

では初見視奏に取り組むと、何の役に立つのでしょうか。初見視奏を通じて、楽譜の情報から「どのような音楽なのか」読みとることができるようになります。これは本を黙読するときに、声を出さずに頭や心で読んでいる状態と同じです。

初見視奏と音楽の基礎能力について、「視(見)る」「聴く」「奏でる(弾く)」「書く」という4つの観点から整理してみましょう。

これらの基礎能力の組み合わせとして、まず第一に音を聴いて真似る、つまり「聴いて奏でる」という世界があります。次に初見視奏は、基本的には「視て奏でる」ものです。一見すると「聴く」世界が無い状態にみえますが、「こんな演奏になるであろう」と想像することで、間接的に「聴く」世界が自分の中に存在することになります。

「視る」「聴く」「奏でる」という3つの世界に、「書く」という世界も加えてみましょう。最後に、自分でその音楽を楽譜として書く。書くというのは「写譜」することでも良いですし、弾いたことのある曲であれば、覚えている限り楽譜に書いてみる方法もあります。書けば書くほど演奏できるようになり、視る力を伸ばすことができます。

「視る」「聴く」「奏でる」「書く」。これらの4つの基礎能力を関連づけながら、初見視奏のトレーニングをすることが大切です。

3.どのような練習が効果的か
まずは聴くことから

初見視奏の練習をするにあたり、まず第一に聴くことが大切です。「視て奏でる」世界である初見視奏につなげるには、聴きながら楽譜を視る習慣をつけることが前提となります。その習慣をつけるために、まずは自分の知っている曲、弾いたことのある曲を聴きながら、その楽譜を見てみましょう。その次は、知らない曲、弾いたことのない曲を先に楽譜を視た後、さらに楽譜を見ながら演奏された音を聴きます。これらは一見似たような作業にみえますが、知っている曲のときには、「音楽を聴きながら楽譜を追っている」のに対して、知らない曲の場合には、「楽譜からの情報をもとにそれを弾いている演奏を聴く」ことになります。これらを繰り返すことが大切です。

メロディ、ハーモニー、リズムの視点を養う

楽譜から音楽を大きく読みとるためには、音楽の3大要素である「メロディ」「ハーモニー」「リズム」の視点を養うことが大切です。音楽の3大要素は建物にたとえると、1階がリズム、2階がハーモニー、3階がメロディです。

各要素についてもう少し詳しくみていきましょう。3階のメロディは、言ってみれば「文章そのもの」です。一つひとつの文には単語や熟語など言葉を構成している要素があります。それと同様に、メロディラインもひとつの意味が成り立つ順番に並べられており、そうした秩序は楽譜に全て書かれています。

2階のハーモニーは、縦の響きやレゾナンス(共鳴)です。これは「音楽の背景」にあたり、時間の流れや季節の移り変わりと同じです。そのため、ハーモニーは単音ではなく、ある一定のまとまりとして存在し、軸を中心に音が積み重ねられていきます。

1階のリズムは音楽の「横の流れ」をつくっています。横の流れにおいて大事なのは、拍や拍子そして基本となる拍子をさらに細かい音符に割ったものであるビートです。ビートと拍子の組み合わせで、リズムにパターンが生まれます。このリズムパターンが重要で、3階建ての中でリズムが音楽の流れの土台となり、その上に季節の移り変わりともいえるハーモニーがあり、一番上に文章にあたるメロディが積み重なります。ですから、3階のメロディにはハーモニーとリズムが内在し、2階のハーモニーにもやはりリズムが含まれるのです。これらが全部書かれた楽譜をパッと見たときに、1階から3階までをそれぞれ取り出して読めることが必要となります。

楽譜をよく読む

楽譜には、全ての要素がまとめて書かれています。どこにメロディがあるか考えたとき、一番上にあることが多いのですが、そうではない場合もあります。そこで楽譜を全体から見るマクロな視点と、細かいところを捉えるミクロな視点の両方で見ていくことが必要です。

これを上空から山全体を見るときにたとえると、一本一本の木など細かい部分までは見えませんが、山並みや山がある周囲の環境といった全体の構造がわかります。もう少し山自体に近づくと、森が見えてきます。大体どんなふうにこの森ができあがっているのか、森という集合体と木の種類がわかってきます。そこでさらに近寄ると林があり、木が生えている土壌の環境なども見えてきます。そして木を一本一本見て、さらに詳細を捉えます。楽譜を読む際にも、徐々に詳細に迫っていく見方をするべきだと思います。そしてそれとは逆に、詳細から全体を見ていく視点で見直すと、さらに深く楽譜を読み込むことができます。

初見視奏の際には、まずは楽譜に書かれた情報を正しく読み弾くことが求められます。その次に「どういうふうに演奏すればより効果的か」と考え、音楽を形成している要素を一つずつ取り出していきます。まず一番聴かせたい主役の部分であるメロディを音に出す。次にハーモニー、これはたとえばアルペジオやスケールなど、どのような響きの和音が連なっているか読み取ります。さらにリズムを捉える際には、拍子とビートに着目し、一定のリズムパターンの繰り返しからその音楽が完成していることをつかみます。リズムパターンを取り出して弾いてみるなどという練習方法があります。

これらの要素の一つひとつに注意しながら演奏を聴き、楽譜を視る。または楽譜を視ながら演奏を聴く自分もその音楽の演奏の一部に参加してみる。そうした練習がとても大切だと思います。たしかに数多くの楽譜を視て弾く練習をたくさんすれば、慣れと共に上達するでしょう。しかし、全ての内容を一度に考えるのではなく、何かその中の1つのことを目標に、楽譜を見ながら少しずつ演奏に加わる過程を経ることで、より楽譜を読み込むことができると思います。そして楽譜の分析では、「上手な演奏を参考にし、楽譜を視ながら研究する」ということがやはり初見視奏の訓練の基本となるでしょう。まずは自分が知っている曲が、楽譜にどう書かれるのか理解する必要があります。

実際に曲で確認する

では、私が作曲した新曲視奏課題『FOREST BIRDS』を通じて、楽譜の見方を確認していきましょう。楽譜からまず読みとるべきことは、8分の6拍子、ト長調(G dur)で書かれているということです。

次に、メロディのモティーフは2小節から成り、第3-4小節で変化しながらモティーフが繰り返されます。続く第5-8小節は、「起承転結」の「転」にあたる部分。第6-8小節で一定のメロディが3回続いているのが特徴的だといえるでしょう。第9-12小節は、前の第5-8小節に応答するように作られています。そしてD.S.で最初に戻り、第13小節からのコーダで終わっている。メロディという観点からは、こうした全体の起承転結が見えてきます。

また、ハーモニーを見てみましょう。第1-4小節ではバスは「ソ」から動いていませんが、Ⅰ―Ⅱ―Ⅴ―Ⅰという代表的な和音進行が用いられています。第4小節は主和音で終わり、句点(。)のような音楽の区切れがあります。このように曲の背景には和音のシンプルな流れがあることがわかります。コーダに入ると、最後は主和音で終わっています。

さらに、この曲は主に4つのリズムからできています。第1-2小節(①)、第5小節(②)、第6小節(③)、第13小節(④)です。この4つの素材が曲を形づくっています。
このように楽譜を読む際には、全体像を把握するためにメロディ、ハーモニー、リズムに着目することが大切です。そして曲の全体像を見極めた後に、その他の表現を考えていきます。今回は曲名が『FOREST BIRDS』ですから、鳥が動く様子をイメージしてみましょう。第2小節には右手に「カッコウ」を模した部分があり、続けて左手にも現れています。そこでこの部分のスラーの表現やペダルの入れ方を検討する必要があるでしょう。またそれぞれの強弱やAllegretto con motoについても考えて演奏していきましょう。

おわりに

つまり、「音」というのは目に見えない世界です。聴いたそばから消え去ってしまうものを目で追える形にしてあるのが「楽譜」ですから、その楽譜を実際に音にしたらどうなるのか理解するためには、楽譜を視ながら弾く初見視奏が必要です。
楽譜を読めなければなりませんが、はじめは読んですぐ音に置きかえるのは大変な作業でしょう。ならば、まずは自分の知っている曲を楽譜と照らし合わせていく。次に、自分の知らない曲を音源を参考に、楽譜を視ながら音を聴く。それから情報としては楽譜のみから読み解き、後から「音」という情報を聴き、楽譜と見比べることです。
さらに音楽の3要素である「メロディ」「ハーモニー」「リズム」を捉えていきます。全体で見るとどのような山の構成なのか。次に全体の山から徐々に一本一本の木へと近づいてみる。その逆に木から徐々に遠ざかる、という視点で自分の目線を近づけたり遠ざけたりする。その時、「視る」「聴く」「奏でる」「書く」の観点から、楽譜と音を連動させましょう。
最後に、初見視奏は「急がば回れ」です。山に登るときにいつも南から登るのではなく、北から、東から、西からというように複数のアプローチを通じて、さまざまに角度を変えながら初見視奏の世界を見せていくことが大切だと思います。

佐々木邦雄
ささき くにお◎東京芸術大学作曲科卒業。大学在学中より現在までに、劇団「薔薇座」コンサートマスター・音楽監督、東京コンセルバトゥアール尚美講師、(財)ヤマハ音楽振興会本部国内・海外指導部、及び出版部制作編集スタッフ、ヤマハ&東芝EMIの「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」レコーディングディレクター、ユーキャン[ポピュラーピアノ]通信教育テキスト制作及び添削指導。さらにヤマハの「PEN」の本部スタッフ10年勤めた。これまでに「ソルフェージュ指導法」を中心に1,000回を超える各種講座を日本各地で行っている。現在千葉県船橋市でケー・エス・ミュージックを主宰し、ソルフェージュ指導を中心に、作曲・理論・伴奏法・楽典・ピアノ演奏・アンサンブルのレッスンを行い、これまでに音大・音高に送った生徒の数は数百人に上る。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会正会員及びメディア委員会副委員長、指導者育成委員、2018年度まで聖徳大学音楽学部兼任講師。

指導のいろは
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