ピティナ・指導者ライセンス
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Vol.53 尾上繭子先生「様々な分野へ学びを拡げる」(2021年度全級合格)

合格体験記
vol.53
尾上繭子先生

神奈川県横浜市/正会員/2021年度全級合格

小学校の音楽専科を経て、個々に合わせたピアノ指導者へ

郷里の熊本で、学生の頃から始めたピアノ講師やバレエピアニストとして活動した後、小学校の音楽専科として5年間勤めました。2年ごとに別の学校へと転勤になる度にその学校の部活動の顧問も担当し、吹奏楽や合唱、器楽合奏クラブなど、音楽の授業以外にも子どもたちと密に関わる機会を得ました。通常のクラスではなかなか花開かない子が、音楽の授業では輝く場面もたくさん目の当たりにしてきました。そのような機会を増やすため、赴任した学校ではリコーダーで1曲吹けるようになったらシールをあげる取り組みをしたところ、音楽が得意な子も音楽に興味がなかった子もどんどんリコーダーを練習するようになり、教室の休み時間や下校時にもあらゆる所でリコーダーが奏でられている学校になりました。

横浜に引っ越してからは、知らない土地だったことに加え、学校という団体で皆同じペースで音楽を学ばなければならないジレンマも感じていたこともあり、一人一人のペースに合った音楽教育をしたいと思い、自宅でピアノ教室を始めました。個人レッスンになっても、学校で得た子どもとの関わり方や、声掛けの仕方など、ピアノ指導で役立つことがたくさんありました。

「お友達がピティナのステップを受けていたので自分もステップに参加してみたい」という生徒がきっかけで、発表会代わりにステップを活用するようになりました。強制的に勧めてはいないのですが、教室の公式LINEで「今回のステップには〇人がエントリーしています」ということや、表彰などの頑張りを載せたことで、他の保護者の方たちも1回出てみようかなと思われるようです。

生徒が増えてくると、それだけ自分の課題も増えてきます。一人一人違う生徒にあった指導ができるよう、自分の指導力の引き出しをもっと増やしたいと思うようになり、指導者ライセンスの受検を考えるようになりました。すごく頑張っている生徒の姿を見て、この子が高校生になった時も自分がしっかりと応援し導いてあげられる人でありたい、と思いました。その頃は自身の子供が小さかったので、まずは筆記試験から受け始めました。

筆記試験とエッセイで学びの点と点がつながる

筆記試験からはたくさんの気づきを得ました。学生時代に学んできたことの点と点がつながり、学びを実践につなげる道筋が見えてきた気がしました。自分で足りないと思っていたことに加え、足りないことにも気づいていなかったこともたくさんありました。勉強方法としては、まず自分なりに課題曲をアナリーゼした上でeラーニングを活用し、アナリーゼや練習法をとにかく楽譜に書き込んでいきました。満点でなくても、学んだ分は必ず実になります。決して受けっぱなしにはせず、点が取れなかった部分は、答えを見て自分にどこが足りなかったのかを照らし合わせ、こういうことをやればいいのか、という次への原動力になりました。

次に取り組んだのはエッセイでした。書き始めてみると、漠然としていた指導方針が整理されました。そしてレッスンの最終目標から逆算した初級・中級・上級の指導が考えられるようになり、迷いなく指導できるようになりました。

実技試験の講評を普段のレッスンに落とし込む

筆記の最終試験の時に西畑久美子先生とお話することができ、演奏実技に向けてのレッスンをお願いすることになりました。

西畑久美子先生(右)と

指導実技に関しては、eラーニングやレッスン見学を活用して、とにかく色々な先生のレッスンを拝見して学びました。他の先生の指導を見る機会はとても貴重で、教材や声掛けの仕方から、それに対する子どもの反応や演奏の変化を見てとることができ、とても勉強になりました。

指導実技の講評ではとても愛情深いコメントをいただき、課題もたくさん提示していただきました。そして、次の中級・上級までの間に、普段のレッスンに落とし込み実践してみました。生徒の反応や音が以前と変わったことを実感し、実技試験で指摘されたことやエッセイでまとめた自分の考えの実際の感覚をつかむことができるようになりました。

上級指導実技で、やっと自分で納得いく指導ができた気がします。今までやってきたことが形になって、手ごたえを感じることができるようになりました。指導実技試験を通して、最後のゴールを決めてそこに向けての指導法を考えることが大事だということ、レッスン時間は限られているので、あれもこれも直したくなるけれど全てをこの日に言おうと欲張らずに1か所ずつ丁寧に指導して、そのレッスン内で何かできるようになった方が生徒も安心することなどを学びました。頭では分かっていることでも、客観的に見てもらうことでより鮮明に問題点が見えてきました。

反響-子どものチャレンジを応援する保護者が増える

ライセンス全級合格した後は、保護者からの反響がすごく大きいことに驚きました。「大人になってから頑張る先生がすごい」、「先生のお便りを見て、私も頑張らなきゃと思いました」などという感想をいただきました。お母さんが変わると子どもも変わります。練習に意欲がわいてきた子、自分もチャレンジをしたいという子、子どものチャレンジを応援したいというお母さんが増え、コンクールに出たいという子も増えました。今回のことを通じて、そういう影響の仕方もあるんだなと思いました。

様々な分野へ学びを拡げる―メンタルトレーニングから防災まで―

指導者ライセンスを受けたことが刺激となり、この期間、音楽以外にも色々な方面へ学びを拡げました。ピアノ指導者は個人事業なので、音楽のことばかり勉強してきて視野が狭くなっていることがあります。以前、以前、頭痛薬の商品改良に洗剤部門から異動してきた方の知識が活かされたという話を聞きました。「ここをよくしたい」と思った時、意外と全然違う所にヒントがあることがあるものだなと思いました。知らないことは山ほどあります。その中で、自分の興味が出た分野を学んでみることで、その知識を自分の専門を豊かにするために生かすことができるのではと思い、異なる分野も積極的に学ぶようになりました。

自分の教室だけでも、色々な生徒がいます。例えば、すごく頑張り屋さんで真面目に練習をするのだけれど、発表会になると緊張して思うようにいかない子のために、緊張をほぐし、慣れるためのメンタルトレーニング法を学びました。その効果あって、その子も今では本番が大好きになりました。これは、幼稚園のお遊戯会に出られないような子にも役立ちました。また、ステージ本番にはまだ出たくないという生徒さんのために「ステージ体験会」を開くなどのアイディアにもつながりました。本番前に、発表会に参加しない生徒さんだけが、身内と写真家しかいない会場で演奏します。本番も見学でき、家族写真も撮影してもらえるので、「ステージは楽しいところ」と捉えてくださる方が多く、その後のステージ参加の意欲にもつながっているようです。

心理学では、親子の接し方や生徒の立場に立った声の掛け方を、脳科学では発達にあった課題の与え方やレッスンの方法を身につけました。

防災についても学びました。東日本で震災を経験し、地元熊本も被災したことから、備えが大切だと感じ、防災についても学びました。音楽は災害時にも心を癒してくれると感じ、万が一のことが起きた時にいち早くレッスンが再開できるようにと、蓄電器も購入しました。コロナ禍になっても消毒などの対策をSNSなどで細かく報告していたところ、「先生のところならば安心して行かせられる」と、レッスンに来てくださいました。保護者にとっては、ピアノ教室は子どもを一人で行かせても安心できることはとても大事なことので、感染対策や防災対策をきちんとしていたいと思っています。

幼稚園でピアノの演奏とお話
今後の展望

ピアノという習い事の人気をもっと高めたいと思っています。一人の子どもにこんなに長い期間寄り添える先生っていないですよね。学校の先生も変わってしまいますし、小さい頃から、家庭環境も含めてその子のことを知っていて、ピアノの先生って子育てのサポーターのような立場だなと思っています。

以前は子ども中心の教室でしたが、指導者ライセンスを全級合格した頃から、前向きな大人の生徒さんの入会が増えてきました。ライセンスを受けたことなどをブログで読んでくださっているようです。ある時は、それまでレッスンを受けたことがなかった70代の方が体験レッスンに来られました。バイエルの44番を一緒に連弾したところ、まだ自分でも頑張れるんだ、弾けるんだ、と思って感動して涙をこぼしていらっしゃったのが印象的でした。

地元の中山駅の構内にも、自治会のカフェの人が寄贈してストリートピアノができるというので、生徒を連れて弾きに行きたいと思っています。大人も子どもも、弾いたことがない大人でも誰でも弾けるピアノになるといいなと思っています。そんな地域のピアノを通じた活性化にも何かしら関われたらと思っています。

これから受検される方へのメッセージ

「今よりもよいピアノ指導者になりたい」と思う方は、まずはやってみるとよいと思います。今まで分からなかったこと、分かっていないことも分からなかったことも、たくさんの気づきがあります。チャレンジして無駄になることは一つもないので、まずはできるところから挑戦してみていただけたらと思います。

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