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保護者・生徒と共感するコミュニケーション(執筆:角野美智子)

指導のいろは
保護者・生徒と共感するコミュニケーション

執筆:角野美智子

「入会時にどういったコミュニケーションが必要なのだろうか」「生徒が課題をクリアできないや、コンクール等で思うように結果がでない時には、どのように声がけしたらよいのだろうか」「思春期や進学や受験など、人生の転換期を迎えたときには、どう接したらいいだろうか」

一度はこのような事、考えたことありませんか。

二人のお子様の子育て、そして指導経験も豊富な角野先生に、生徒一人ひとりに合ったレッスン方法や、指導する上で大切にされているコミュニケーションについてお伺いしました。これからピアノ講師を目指す方必見の内容です。

1. はじめての保護者との意思共有

先生のお教室に入会される生徒さんについて

すでにピアノを習っていて、更なるステップアップを目指して入会される生徒さんも、これからはじめてピアノを習うという生徒さんも、両方いらっしゃいます。

最近は、コンクールを目指して頑張りたいと言って入ってこられる方が多いですね。例えば他の教室でピアノを習っていて、なかなか結果が思うように出ないという方、もっと上を目指したい方、それぞれが具体的な目標を持って入ってこられるケースが多いです。今の私の教室では、コンクールを目指して頑張っている生徒たちが多いので、一緒に切磋琢磨して頑張っていくという雰囲気の中で取り組むことができると思います。

また、小さなお子さんで、これからピアノを始めたいという方もいらっしゃいます。年齢にもよりますが、2歳とか3歳でしたらコンクールに出るわけではありません。保護者の方には、より良い環境で教育を受けさせたいという高い志を持ってこられる方は多いかもしれません。

(コンクール等の)生徒が目指す方向性は、生徒・保護者とどうやって共有しますか。

先生の教室に入れば結果が出るはず!先生がなんとかしてくれる!と思う方もいらっしゃいますが、結果が全てではありません。成長を見つめてあげると、その子は伸びていきます。生徒が頑張る過程こそが大事だと思います。

結果ばかりを求めると後々つらくなってしまうので、そのような目標に対する心構えは入会時に保護者を含めてしっかりお話しするようにしています。保護者の方も一緒に「応援する・サポートする」という雰囲気で、一緒に音楽を共有できるといいですね。

生徒と、「共感」を大切に。

「これをしてきてね」という指示の出し方ではなく、「どれが素敵だと思う?」「AとB、違いが分かるかな?」など、生徒と共感することを大切にしています。生徒に思うように伝わらなかったら、その理由を確かめる作業を必ずしています。常に受け身でいるのではなく、自分で動きたい!(弾きたい!表現したい!)と思ってもらえるように、生徒自身に考えてもらい、感じてもらうことを心がけています。

また、素敵な演奏ができたときに、「これだよね!」というその一瞬をフォーカスし、共有することをとても意識しています。保護者も含め生徒と先生、3人で感動を分かち合えると、その場に良い空気が流れていきます。こうすると、生徒自身も課題を認識したり、素敵な音を認識したり、やることが明確に見えるようになっていきます。

2. ピアノを通して問題解決能力を身につける

生徒が思うように課題をクリアできない時の対処方法

まず、原因を見つけます。

例えば・・・

課題が「歌えない」「音楽が進まない」場合 身体で音楽を感じられているか確認するため、実際に声に出したり体を動かしてもらいます。
「本番で力が発揮できない」場合 本番経験が少ないことが多いので、小さな本番を積み重ねてもらうようにし、徹底した練習不足が原因でしたら、練習方法を見直し、頑張り方を変えてもらいます。
「リズム感がない」場合 運動が苦手なことが多いので、キャッチボールを宿題に出して瞬発力を鍛えてもらいます。

このように、その生徒が抱えている課題を本人と一緒に究明して、一つずつ地道に解決していくことが成功体験に繋がるのです。常に生徒自身が反省と目標を意識し、合理的に考えることを心がけています。

達成感の積み重ねは自信に繋がる

本番前には今の状況を正直に伝えるようにしています。「このままじゃ間に合わないけど、どうする?」と生徒の気持ちを聞き出し、「あなたが頑張るなら先生も本気でサポートするよ!」と伝えます。そうすると本人の発言に責任を感じることができますし、意思を持って挑戦してくれるようになります。

決してこちらから強要するのではなく、やりたいことを尊重し、寄り添うことが大切です。

リスペクトしている気持ちは相手に伝わるはずです。普段のコミュニケーションでは生徒さんをよく観察し、それぞれの得意なことを見つけて褒めてあげると、できないことも頑張る気持ちになってくれます。言い方ひとつでモチベーションに影響しますので、どのように伝えたらその子が目を輝かせるのかについても意識して観察しています。

3. 思春期に寄り添う第二の母親へ

思春期にさしかかると、レッスン中一対一で生徒さんとのお話で1時間終わることもあります。お月謝を払っているのにピアノを弾かないことに勿体ないという気持ちもあるかもしれませんが、保護者の方とも信頼関係が築けていれば、「今大事な人生勉強中」ということをお伝えすることで納得してくださいます。

思春期というのは成長していくうえでとても貴重な時期ですし、生徒を預かる以上、長いスパンで見させていただくので、私もその青春の渦中に入ってサポートしながら一緒に乗り越えていくことで、「第二の母親」のような存在として、生徒とコミュニケーションも取ることができます。

ありがたいことに保護者からも救ってくださったと感謝されることも多いです。思春期の時期は、親や友達との関係でたくさん悩みを持つことが多いと思うので、習い事の先生というのは大事な存在だと思います。

ピアノが人生の強みに

大前提にピアノが全てではないので、他のことを制限したくありません。受験前に休んだり、練習時間を減らしたりしてもOKです。生徒にピアノだけに関わらず色んな選択肢があるのはその子にとって大きな「強み」です。生徒さん自身が選択し、上手く両立していくことで人間力がついていくでしょう。

芸能活動や部活と上手く両立しながら頑張っている生徒もいますね。色々なことで活躍しているのをとても嬉しく思っております。

レッスンをお休みしても、退会せずまた戻ってきてくれる生徒さんもいらっしゃるのですよね。

「音楽をする」ということが生活に根付いていることがまず第一にあるのだと思います。「(ピアノを)やってもつまらない」と思っている限りは、長く続けることは難しいですよね。音楽を心から楽しんでもらうために、どんな生徒でもまずは譜面を読む、という基礎の底上げを丁寧にする事が大切だと思います。

その結果として、生徒が自分のやりたい音楽を形にすることができ、ピアノが趣味、それ以上の特技にもなっていきます。そして、音楽が自分のアイデンティティとして形作られ、「ピアノ習っていてよかったなあ」というシーンがたくさん生まれてくるのです。

生徒さんが転換期(受験や進学のため)を迎えたとき、どう対応されますか。

レッスンの回数を減らしたり、その子の要望に応じた対応(逃げ道)を作ってあげながら、ピアノを続けるという選択をしてもらえるように、お声がけしています。

発表会には全員参加としていた時期もあったのですが、色んな音楽との関わり方があるので、それぞれのペースや理想に合わせて焦ることなく付き合っていってほしいという思いから、現在では発表会は任意参加としています。ですが毎年ほぼ全員の生徒さんが参加してくださり、発表会を目標の一つとして日々練習に取り組んでくれています。

私自身は「個性溢れる子を育てたい」と思っていますので、生徒が自分で発信していく力をつけてもらえるよう、その子の意思を最大限尊重しています。

ただ、目標を持つことはとっても大切です。

コンクールと一言で言っても、いろいろなレベルがありますので、一人ひとりの能力、器の中で成長できるようなコンクールを提案しています。その子なりのステップを積み上げてあげ、達成感を感じてもらうことで、生徒の中で「ピアノが大事なもの」となり、その子の人生が花開くものとなっていくはずです。

ピアノ指導者をめざす方へ

最初は指導方針について悩むことが多いと思いますが、失敗を恐れずに色々なことに挑戦していってほしいと思います。先生自身が経験を重ねていくことで世界が広がりますし、新しいことを知ることそのものを楽しめるようになると、さらに先生もステップアップしていけると思います。

私も最初は失敗ばかりでした。経験は財産だと確信しております。先生自身が失敗を恐れない気持ちを持っていると、生徒さんの成長を一緒に喜べるはずです。音楽を伝える楽しさや熱意というのは、生徒さんに絶対伝わりますので、ぜひ、生徒さんと一緒に音楽を楽しめるようになってほしいです。頑張ってください。

角野美智子
すみの みちこ◎桐朋学園大学ピアノ科卒業後、ボストンのニューイングランド音楽大学大学院に留学。今までに木村徹、森安芳樹、渡邊康雄、ヤコブ・マキシンの各氏に師事。現在、幼児から大人まで、音大受験生、ピアノ教師など幅広く指導にあたっている。2000年よりピティナピアノ指導者賞を連続受賞。2004年、2005年、2010年、2011年、2013年、2014年、2015年、2016年には特別指導者賞も併せて受賞。今までに延べ119名がピティナ全国決勝大会に出場。その他、ピアノオーディション全国大会出場、千葉音楽コンクール最優秀賞6名、ショパン国際ピアノコンクール・イン・アジア金賞など、毎年多数の入賞者を輩出している。一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)正会員・ピティナコンクール審査員・ステップアドバイザー。角野美智子ピアノ教室主宰。chibaきらめきステーション代表。

指導のいろは
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