指導者育成委員長・金子勝子先生が考える「ピアノ指導者」
ピティナでは、継続的な指導力の研鑽を支援するために、指導する対象に合わせたピティナ・ピアノ指導者ライセンス(以下、指導者ライセンス)を展開したり、ベテラン指導者によるレッスン・レクチャーのセミナーなどを開催したり、指導者の育成に力を入れています。
そして、その取組の一環として、連載「指導のいろは」がスタートします。これからピアノ指導者を目指す方、音大生や若手指導者から「ピアノ指導について学び直したい」という先生方までを対象に、ピアノ指導者に必要なスキルや指導の基礎となる部分を連載形式で紹介します。
初回は指導者ライセンスを運営している指導者育成委員会委員長の金子勝子先生に、指導者のあり方や役割、ピアノ指導者として日々大切にしていることを伺いました。
ピアノ指導者とはどのような存在でしょうか。
ピアノ指導者なのでピアノを教える事はもちろんですが、それ以上に生徒を「育む」ということが重要だと思っています。生徒は、それぞれに長所と短所があり、一人ひとり全く違う考えや感性を持っています。ですから、まずは生徒さんとよくコミュニケーションをとり、じーっと観察して、その子についてよく知るところから始めます。
これによって、その後のレッスンでも円滑にコミュニケーションを取りながら進めることができます。また、その子が持っている「個性」を引き出すことで、「個性」をより魅力的なものへと導けるようになります。
「コミュニケーション」と「観察」、これが指導のポイントなのですね。
コミュニケーションと観察を繰り返していくと、生徒さんの個性や癖に気づくことができます。それらをどう導いて正しい指の形や弾き方へ導いていくか、というのを日々生徒さんに教えながら私自身も教え方を常に追求し続けています。指導をはじめて57年が経ちますが、これまでの指導で積み上げてきたものをまとめたものが「指セット」になります。
美しいレガートを弾くためには「打鍵した瞬間の音のバランス・コントロール」が大事です。そのために、指の支えをつくるトレーニングを開発しました。
目的に合わせたトレーニング方法をご紹介した動画もeラーニングにアップしています。全編ご覧になりたい方は、eラーニングよりご視聴ください。
指導者としてのやりがいを教えてください。
やはり生徒の成長は、指導者冥利につきます。国際コンクールへの出場やコンクールでの入賞、演奏活動の成功など、目に見える生徒の功績はもちろん、目には見えない生徒の成長も大変嬉しいものです。
直近での生徒の活躍で言えば、角野隼斗さん(2018年ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ)や今井理子さんが、昨年開催されたワルシャワで開かれた第18回ショパン国際ピアノコンクールに出場しました。2人とも、国際コンクールという大舞台で立派に演奏を披露してくれ、私も現地で聴いていましたが、本当に胸にじーんと来るものがありました。
指導者にとって最も必要な事はなんでしょうか。
常に学び続けることです。実際にレッスンする際には、指導者として必要な演奏技術だったり、生徒に必要な指導のポイントを即座に見つけることが必要です。これらは、学び続けていれば必ず身についてくるものです。まず第一に、その「気持ち」です。
ピアノ指導を学ぶためのツールとして、ピティナには指導者ライセンスという検定があります。
皆さん、自分のレッスンを振り返ることはありますでしょうか。
レッスンの記録を取り、生徒それぞれにあった指導案やカリキュラムを考えることがあるかと思いますが、自分のレッスンを見返すことはあまりないですよね。毎日でなくとも、時々自身のレッスンを客観的に見ることは非常に大切なことだと思っています。
コーチ的な視点で定期的にレッスン(自分の指導方法)をベテランの指導者にチェックしてもらうことで、レッスン方法を試行錯誤したり軌道修正することは、指導者にとっても大きな学びとなります。そして、さらにピアノを楽しむ生徒が育つことにつながっていきます。
レッスンを見てもらうことで、指導者にも生徒さんにもプラスに働くのですね。指導者ライセンスにはディスカッションの時間が設けられています(※実地試験のみ)。
ディスカッションの時間には、審査員の先生方と参加者が参加して、試験の振り返りはもちろん、日々のレッスンの悩み相談など、自由に意見交換できる場となっています。
参加者同士の交流もここから生まれています。ピアノの先生は、基本的に一人で仕事をしているので、同じ立場で働く先生方との交流はあまり多くはないですよね。指導者ライセンスの場をぜひご活用頂き、指導者の先生のコミュニティが広がっていけば大変嬉しいです。
金子先生が指導者ライセンスの審査をする上で重視していることはありますか。
実際に審査をしていると、まだ指導者として十分ではないかなと思う事も正直あります。ただそれは、指導者としてダメという事では決してありません。私自身も若い時にはたくさん苦労しました。これまでに色んな生徒を教えてきてそこの過程で培われたものが、今の指導力そのものです。
私が審査する時には、その先生が少し工夫を加えたら良くなるポイントを選んで、採点票でお伝えするようにしています。それは生徒への指導でも同じです。
指導者への指導ということで、何かされている活動はありますか。
ピアノの先生として活躍している教え子が多くいます。そこで、教え子の生徒さん(孫弟子)が月に1回程度集まる弾き合い会も実施しています。指導者ライセンスを全級取得された、桃原聡子先生がこの回をまとめてくれるのですが、彼女も本当に弾くのも育てるのも上手になっていると思います!ぜひ皆さんも、連載「指導のいろは」から指導に必要な基礎知識やスキルを習得し、指導者としてレベルアップしてほしいと考えています。
また、指導者ライセンスを全級合格されている方も、継続して指導実技に時々参加してレッスンを客観的に見る機会を作るなど、意識的に指導力の向上をはかっていけるとさらに良いと思います。
連載「指導のいろは」で指導に必要なスキルやピアノ指導の全体像を掴んで頂き、そこから能動的に学ぶことができる「指導者ライセンス」に挑戦してほしいと思います。
最初から完璧な指導ができる人はいません。何事も経験です。まずは1回参加する勇気をもって、一緒に学び続ける指導者を目指していきましょう。