Vol.35 小山明子先生「一般就職を経てピアノ指導者に」(2020年度全級合格)
神奈川県茅ケ崎市/指導会員/2020年度全級合格
音大を卒業後約12年間、公益法人の人材教育事業に携わる仕事をしていました。そこで人材育成のセミナーの運営や事務、そして毎日のようにセミナーの司会をしていました。就職した時には、もうピアノを弾くことはあまりないのかな、と観念していたのですが、職場の福利厚生で音楽部を立ち上げたのをきっかけに、ファゴットやクラリネット、チェロや歌の方などと一緒に演奏をするようになり、「やっぱり音楽を続けたいな」と思うようになりました。
結婚して茅ヶ崎へ引っ越して職場をやめ、ピアノの先生を始めようと思いましたが、学生時代以来指導経験もなく、地縁もないので、始める自信を持てずにいました。その間、ボランティアで演奏活動をしたり、知的障がいのあるお子さんの演奏活動を手伝ったりもしながら、今度は色々な病院の中に保育所を作る仕事に携わるようになりました。そこで「子どもや保護者との付き合い方、接し方」について学びましたが、ピアノの先生をやるにしても、「子どもや保護者との関わり」が結局はとても大きな部分を占めてきますから、その後非常に役に立ちました。また、人間が育つ上での音楽の大切さも強く感じるようになりました。
2011年に被災地から避難してきたお子さんにピアノを教え始めたのも、ピアノ指導へ踏み出す大きなきっかけの一つです。初めは小学生のお子さんは精神的に不安定で、教えるのはすごく大変でしたが、自分自身とても勉強になるし、日に日に元気になっていく姿を見て、音楽の大切さや力を感じました。「音楽で子どもたちを元気にしてあげたい!」という気持ちに突き動かされ、やっぱりピアノの先生をやっていこう、と思うようになりました。
そんな時に、交流のある調律師さんが「ピアノ指導者としての系統的な勉強をしたいのならば、ピティナの指導者ライセンスというものがあるから、受けて勉強してみたら」と勧めてくださり、挑戦してみることにしました。また、ピアノ教室を開くにあたり、自宅を引っ越して防音室を整えたり、個人経営をするならばと簿記の勉強もし、ピアノ教室運営の準備もしました。
2016年2月に初参加してその年に初級は取得したのですが、その後中級の演奏実技をやみくもに受けたところ、見事に3度落ち続けました。。講評で「レッスンを受けなさい」と言われて、本当にその通りだと思いました。樋口紀美子先生のホールレッスンを見学した時に「この先生に習いたい!」と思い、勇気を出してレッスンを申し込みました。落ち続けて恥ずかしい、というよりも、中級の曲をもっと勉強したい!という気持ちが強かったのだと思います。
樋口先生のレッスンを3度ほど受け、中級の演奏実技にようやく合格することができました。樋口先生には、テクニックを一から教えていただき、付け焼刃ではなく毎日の練習で積み重ねていけるようになり、少しずつ実力がついてきている実感があります。それだけでなく、樋口先生には精神的にも非常にサポートいただいていて、樋口先生に「何とかなるわよ!」と言われると、与えられた時間の中でできることをやってみよう、それでだめだったら仕方ない、と前向きに思えるようになりました。
樋口先生の生徒さんには、指導者ライセンスやコンペに取り組んでいる生徒さんが多く、非常に刺激を受けました。先生はコンペやステップを受け続けることで、ライセンスの上級の勉強にもなると私にも参加を勧めてくださいました。
その後、ステップ、コンペと受けて上級演奏実技にも合格、2020年9月には全ての課程を取得することができましたが、今もコンペやステップには参加し続けています。
指導者ライセンスでは、ピアノ指導にまつわる色々なことを、一から学ぶよい機会となりました。西尾洋先生のアナリーゼのセミナーは、アナリーゼを難しく捉えていた私には特に印象的で、「子どもなりのアナリーゼの仕方」があることに気づかされました。その他、レッスン見学やセミナーで影響を受けた先生方は限りなく、いつも「もっといいレッスンができるはず」と思ってやるようになりました。受検会場で他の方の実技を見学するのもとても勉強になりました。
指導実技は、公益法人で仕事をしていた頃に、毎日のように人前で話したり、セミナー講師の話を聞いていた経験から、話すことに対しては抵抗がありませんでしたが、受検の過程で大きく2つの学びがありました。1つは、「生徒の集中力は、先生の言葉選びから始まる」のだということです。だらだらと喋っていては生徒が集中せず、うまく伝わりません。特に指導実技では限られた時間の中で成果を出さなければならないので、効率よく伝わるよう、より言葉を選んで発するようになりました。
もう1つは、「生徒の感性に訴えかける」ということです。私はレッスンの中でお話に費やす時間がわりと長かったのですが、講評の時に「音楽なので、お子さんの感性に訴えかけることをしていかなければ。お子さんの感性は素晴しいのだから。そのために、生徒さんにちゃんと模範演奏を聞かせられるように」と言われ、ハッとしました。
樋口先生のレッスンは、まさにその実践の場で、自ら演奏してその音楽でもって教えてくださいます。また、「無駄なおしゃべりと、気づきを促すおしゃべり」があることも実感しています。樋口先生との会話は、「なぜあなたはそう思うの?」などと自問自答させられることが多く、話しているうちに自分の気持ちに気づき、自分にもできるかも、と思えるようになってくるのです。そんな会話は、大切なおしゃべりですね。
私は異業種からの転職からのスタートで、指導者ライセンスも、講師として経験をたくさん積んだ大ベテランの先生方に交じって右も左も分からないまま受検を始めましたが、アウェイ感を感じることもなく受け続けることができ、本当に感謝しています。指導者ライセンスの受検によって、ピアノ指導者としての説得力、問題解決力、洞察力が養われていると感じています。まだまだ勉強することはたくさんあり、特に指導実技はずっと受け続けたいと思っています。
ピアノ教室を始める前に、異業種の様々な仕事に携わり、回り道をしてきましたが、今となっては、それがピアノ教室を運営するにあたって役立っていると思うことがあります。例えば、セミナー運営の仕事では、セミナー講師の話術や自らの司会経験から、人前で話すことへの意識を高く持つことができました。また、保育所を作る仕事からは、お子さんや保護者の方への接し方、子どもが生きていく上で大切なことなどを学びました。そこでは、役所へ提出する書類の作成も多く、教室運営に必要な事務能力も身に着けることができました。公益法人の音楽部では、異業種で仕事を続けながらも生涯音楽を楽しむという選択肢も、子どもたちの未来の一つとして描くことができました。
ピアノ指導者としては、まだまだ学ぶことが多いのですが、私のように音大卒業後に一般就職したけれど、やっぱりピアノの先生になりたい!という方がいらしたら、心から応援し、ともに励みたいと思います。