Vol.23 金子有加先生「教えることは学ぶこと」(2019年度全級合格)
岡山県倉敷市/正会員/2019年度全級合格
システム講師としてヤマハ音楽教室で15余年お世話になり、一人娘が小学校に入学した年に子育てのため退職しました。以来15年自宅で自分のペースでピアノ教室を主宰しています。全級合格した今でこそ、受検して良かったと心から思いますが、それまで指導者ライセンスのことを全く知りませんでした。しかし、「若い先生だけでなく、子育てが一段落してから受検する先生も沢山おられます。とても勉強になりますよ」と、石井なをみ先生が勧めて下さったのをきっかけに受検し、3年間4科目を勉強することで、ピアノ指導を多角的な視点から考えられるようになったと思います。
石井先生にはピティナの先生紹介を通じてレッスンをお願いしました。結婚後20年間お世話になったピアノの先生が亡くなり目標を失っていましたが、石井先生はいつも私の横で一緒に弾きながら、丁寧に真剣にご指導くださり励ましてくださいました。
初級実技のソナチネの曲のレッスンで、メトロノームのテンポ40に合わせて8分音符単位で口で数えながら、テンポ2ずつ上げて片手と両手で練習するよう言われた時は衝撃を受けましたが、有難い思い出の一つです。折しも、先生の還暦記念コンサートに私もお声をかけて頂き参加しましたが、この時の先生の「教えることは学ぶこと」のお言葉は私の心に深く刻まれています。石井先生との出会いに心から感謝しています。
勉強する上で特に重点を置いたのは、アナリーゼです。以前は受け身の姿勢でレッスンを受けることが多かったように思いますが、アナリーゼすることで、ただ機械的に練習して後で音楽的な表情をつけたり、考えてみたりするのではなく、初めて音を出す時からどのように弾きたいかを考えながら積極的に練習できるようになりました。曲の理解を深めるために、美術館やピアノ以外の演奏会、資料集めのために近くの音大の図書館などにも足を多く運ぶようになり、音楽の勉強の楽しさをより感じられるようになりました。レッスンで石井先生が音楽表現のための色々なお話もしてくださったので、興味を持って自発的に楽しみながら行動できたのだと思います。
またアナリーゼは、指導実技を初級、中級、上級の3つをまとめて受検した時にも生かすことができました。とにかく全曲アナリーゼして、弾いたことのない曲でも指使いやペダリングを考えながら楽譜に書き込み、通しで演奏できなくても部分的には弾けるようにして、自分ならどう演奏するかをじっくり考えて挑みました。試験当日は弾いたことのない曲があたり、かなり動揺しましたが、準備の甲斐あって、モデル生徒さんと私の解釈の微妙な違いも興味深く感じることができました。
ライセンスを受検した後は、自分の生徒さんにも、よりアナリーゼを大切にしてレッスンするようになりました。こうした学習は、自分だけでなく聴いてくれる人も納得できるような演奏に繋がっていると感じます。最近はネットでも簡単に作曲家の生きた時代の洋服や楽器、ダンスなど、色々なことが調べられるので、楽しんで知識を増やすことも勧めています。
一番時間がかかった科目が小論文です。まず「音楽と私」のテーマ案を見つけ、これならすぐに書けそうだと思いましたが、長年アウトプットできていなかったからでしょうか、言いたいことがあっても言語化できない自分がいました。提出は3つで良いのですが、数多くあるテーマ案について考えてみると即座に言語化できないので、今も継続して小論文に取り組んでいます。参考テーマ案を考えることは、指導実技のときにも生徒さんへのアドバイスのヒントや切り口になり役に立ちました。
指導者ライセンスには、一人では得られない学び、新しい発見がたくさんあり、私の世界はぐっと広がりました。
レッスン見学では、ベテランの先生方の熱心で工夫がなされたレッスンに感動しました。中でも和田真紀先生のコーチングを活かしたレッスンはとても素晴らしいと思いました。指導者セミナーでも西島実千代先生(2018年度指導者ライセンス全級合格)のコーチングのポスターセッションを見学して、ますます私も指導に活かしたいと思い、現在青木理恵コーチのもとでコーチングを学んでいます。
さらに、指導実技を通して、一人一人に合った身体や腕の使い方などを丁寧にわかりやすく生徒さんに説明できるようになりたいと思ったので、水谷稚佳子先生の脱力・フィンガートレーニング認定講師コースを受講しています。
受検において審査員の先生方からいただいたコメント用紙は、今読み返しても温かい気持ちが感じられ、とても励みになります。いただいたメッセージやフィードバックを今後も忘れずにレッスンに役立てていきたいと思います。
私が新米の講師だった30年前と今とではピアノ指導の世界もずいぶん変わったと思います。脳科学の研究も進む中、練習方法や学習方法の見直しも今一度必要だと痛感しました。そして、今までは「生徒さんのお手本にならなければ」「先生として恥ずかしくないようにしなければ」と思うことが多くありましたが、受検勉強することで「生徒さんと一緒に学ぼう」「生徒さんと一緒に音楽を作りあげよう」といった思いで、自分らしいレッスンができるようになったと思います。
「歳を重ねても必ず向上する」という石井先生の言葉を胸に、これからも楽しく学び続け、生徒さんお一人お一人が、のびのびと自分自身を表現し、心豊かに人生を歩んでいけることを願いながら、これからもレッスンを大切にし、生徒さんとともにたくさんのことに挑戦して成長していきたいと思います。