ピティナ・指導者ライセンス
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Vol.21 谷内彩子先生「"弾く"と"教える"を分けない」(2019年度全級合格)

合格体験記
vol.21
谷内 彩子先生

東京都練馬区/指導会員/2019全級合格

一学習者としてもう一度学び直したい

独身時代は40名ほどを忙しくレッスンしていましたが、結婚・出産を機に全ての生徒さんを他の先生へお願いしてレッスンは中断していました。子どもが近所の小学校に通うようになり、小学校のお友達や「ピティナのピアノ教室紹介」から来てくれた生徒さんに、再び教えるようになりました。ふと自分のことを振り返ることがあり、「ピアノ指導というのは、生徒さんに教えることを通じて、逆に自分が教えられることが多かった。今まで教えてきたことで、そして年を経たことで、自分も表現できることが増えてきているのではないか。もう一度自分も、一学習者としてピアノを学び直したい。」という思いが膨らんできました。

たくさんの「視点」を学び、「気づき」がどんどん生まれる

そんな想いから指導者ライセンスの受検に取り掛かり、まずはeラーニングに登録してみると、こんなにも色々な視点の、興味深い講座がたくさんあることに驚きました。最初は自分の「弾きたい」という一番の興味に近い所から、四期の弾き分けや選曲の観点などを学び始めましたが、eラーニングや実地のセミナーで数多くの講座に触れる中で、たくさんの刺激的な「視点」をいただき、次第に自分の視野も広がっていくのが分かりとても楽しくなりました。

例えば、藤原亜津子先生のバスティンの講座を通年受講する中では、教材はレシピで、その子に合わせた料理ができるようにたくさんの引き出しを持っていなければならないこと、小さなお子さんの視点に立って、その子が理解できる言葉や体感できる方法で教えることが指導者の役割なのだということを、多彩な例で示してくださりました。専門用語に頼りがちだった私にも「なるほど!」と思うことがたくさんあり、こうした初歩のことが、上級の指導にも、そして自分の演奏にもつながる土台になっているのだ、と初級指導の大切さを強く感じました。

指導実技の受検の際にも、自分がアドバイスをいただくだけでなく、色々な受検者の十人十色のレッスンの聴講や、ディスカッションの時間を通じて、自分にはないたくさんの「視点」に気づかされました。また、レポートは自分の考えをまとめるよい機会となったのですが、何よりも、例示されている項目自体から学ぶことが多く、自分自身を見直すきっかけとなりました。学び続ける過程で、自分の中で「気づき」がどんどん生まれていき、自分が小さい頃や学生の頃に先生から言われていたことにはどんなメッセージが込められていたかに改めて気づかされたり、自分の中で色々なものが立体的に形作られていくのが分かりました。

レッスン風景
「弾く」と「教える」を分けない

このライセンスの受検の過程で得た多くの「視点」の中で、最も自分に影響し、ライフワークとしていきたいと思ったことは、「弾く」ことと「教える」ことを分けない、ということです。指導実技のディスカッションの際に審査員の先生方が、「ピアノがせっかく2台あるのだからもっと活用した方がよい」「模範演奏でなくてもいい、片手だけでも一部でもいいので、先生が弾いて見せ、音で聴かせてあげて欲しい」と仰っていました。

樋口先生と

その時、私が小学3年生の頃の経験を思い出しました。その頃バッハのインヴェンションを学び始め、楽譜の中から主題を探していくのがパズルのようだと興味を覚えたものの、なかなか練習がはかどりませんでした。そんな時母が、クリストフ・エッシェンバッハのインヴェンション・シンフォニアのレコードを買ってきてくれて、「こんなに素敵な曲だったのか!」と衝撃を受け、それ以来バッハが大好きになりました。そんなことを思い出し、審査員の先生方が仰る「先生が弾いている様で、音で、伝えて欲しい」という言葉が、すとんと腑に落ちました。

初めてレッスン見学に伺った樋口紀美子先生は、まさにそれを体現されている先生でした。樋口先生は、「演奏」と「指導」を分けておられず、レッスンの時も常にご自身で弾きながら示してくださるのですが、その音色が本当に「違う」のです。それを間近で見て、聴いて感じる、まさに音楽が生きているレッスンでした。それから1年後、2回目のレッスン見学に伺った後、どうしてもこの先生に習いたいと、思い切ってピティナの教室紹介を通じてお願いした所、幸運にもその後も指導してくださることとなりました。3度目のレッスン見学にあたる今年の1月のレッスン見学では、生徒役を務めさせていただき、感慨深い思いでいっぱいでした。

樋口先生の元で学び直したバッハのトッカータで挑戦した「日本バッハコンクール」では先日、一般部門Bで第1位をいただくことができました。かつての小さな生徒さんたちにも受賞を伝えたところ「私も先生にみたいに、グランミューズやバッハコンクールに挑戦したい」と言ってくださる生徒さんもいて、本当に嬉しい気持ちとなりました。

日本バッハコンクール
「その人の心の栄養となるのが音楽」

樋口先生のレッスンから学んだ音楽との向き合い方は、私の人生との向き合い方にも影響を与えてくれました。先生はレッスンの時、「自分がこう弾きたい」とか「こう弾きなさい」ということではなく、作曲家の立場に立って本質を考え、そして生徒がどうやったら自分で気づくことができるかといった問いかけをなさいます。また、ともすると突っ走る傾向にある私の演奏も「長所と短所は表裏一体なのよ。」と個性を認めてくださった上で、生徒の立場に寄り添って考える、そんな声がけをしてくださいます。

音楽を究めていく中で、相手の立場に寄り添う姿勢が育まれ、日常のことでも「違う視点で考えてみよう」と思うようになり、人間関係にもいい影響を与えるようになったと感じています。これもまた一つ、音楽を学ぶことで得られた幸福感です。ピアノを練習することが、そうした人生の幸福感にもつながることを感じられるレッスンを、私もしたいと思いました。

「ピアノは上手い下手ではない。その人の心の栄養となるのが音楽。だからそのお手伝いをするピアノの先生って本当に素晴らしい職業だわ。」と熱く語られる樋口先生のように、私も自分と人との「心の栄養となる音楽」にずっと携わっていきたい、と思いました。私もそんな風に言葉にできるよう、音楽を追求し精進する喜びを分かち合える先生を目指して、勉強を続けていきたいと思います。

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