Vol.20 仕舘洋子先生「目の前の演奏に全力でレッスン」(2019年度全級合格)
兵庫県神戸市/正会員/2019年度全級合格/指導者賞2回受賞/北神戸すみれステーション代表
長年ヤマハ特約店講師として稼働しながら、7年前に神戸市でピアノ教室を開業しました。生徒がコンペティションに参加する際、自分自身が課題曲を勉強するために、指導者ライセンスの春の筆記試験を受験したのが、最初のきっかけでした。それからしばらくして、2018年に春の指導者賞をいただくことになり、授賞式のある指導セミナーで、第一線で活躍される先生方が熱心に勉強を続けておられる様子に心を打たれ、「何年かかっても指導者ライセンスに全級合格したい」と目標に掲げるようになりました。
指導者ライセンスの受検経験のある知り合いもなく、実技系の対策はどうしたらよいか分からなかったのですが、とにかく受けてみたら、落ちても手掛かりは得られるだろうと思い、行ける限りの土日を使って受検に再挑戦し始めました。
初級、中級の実技を受検した際、審査員をしてくださった故・多喜靖美先生が、講評でこのような言葉をかけてくださいました。「日本にはピアノ指導者の国家資格がありません。ですから、自ら立ち上がって指導者ライセンスを受けようと足を運ばれた先生方は、素晴らしいです。」「ピアノを弾くことが好きな先生の所には、ピアノを弾くのが好きな生徒さんが集まって来ます。これを機に、上手下手関係なく、もっとピアノを弾くことを好きになってください。」この言葉に、自分の心がふっと解放され、目の前が開けたのをよく覚えています。
当時は地元での開催がなかったので、東京、名古屋、熊本など各地へ飛んで、せっかくなので2,3科目まとめて受検しました。一日いる間に、全国から訪れるたくさんの先生方の試験を聴講することができ、他の中・上級の方がどんな曲を選んでいるかよく聴いて分析しました。すると、4期の弾き分けが伝わりやすく、かつ自分のテクニックに見合った選曲をすることが大切なこと、曲の長さやテンポ、変化の豊かさ、緩急の組み合わせなどといった、4曲のプログラムを構成する上での観点も見えてきました。こうした経験は、次の受検をする際のプログラム作りに非常に役立ちました。
また、以前別会場でご一緒した先生に再会してお互いのレベルアップを感じ合ったり、たくさんの先生方にお会いすることで、レッスンが忙しい中一生懸命に研鑽を積んでいる仲間が日本全国にいることを感じて、「自分は一人じゃない、自分も途中であきらめたらいけない」と心強く思いました。
最後に審査員の先生方が受検者全員とお話してくださるディスカッションの時間があるのですが、その際に一人一人に直接コメントをくださることが、次のために非常に参考になる有意義な時間でした。審査員の先生方が、私たちの勇気を歓迎してくれる味方だということを強く感じる機会となりました。
指導者ライセンスの受検対策においては、miyoshiメソッドピアノ研究会でお世話になっている中田元子先生にご指導いただき、励ましていただきました。
それに加えて、演奏実技の練習は、録音やビデオ撮影をして仲間の先生にも聴いてもらったり、ピアノの横に姿見を置いて、人からの視線を感じてドキドキしながら弾く練習をしたり、電気を暗くしてみたりと、思いつく限りの工夫をしてみました。
指導実技の勉強のためには、各地の公開レッスンをたくさん聴きに行ったり、公開レッスンに自分の生徒を出してみたり、eラーニングのコンペの各級の講座を受講したりしました。また、どんな生徒か分からないので、例えば大人しい子の時には言葉がけを多くとか、答えやすいように2択で質問するとか、色々と想定して言葉がけを考えてみたりしました。
筆記試験は、eラーニングの西尾先生や秋山先生の講座を繰り返し見て確認したり、仲間の先生とどんな問題が出るか出し合ったりしました。
それまでセミナーはあちこち受けていましたが、座って受け身で聞いているだけだと、自分自身も、どのくらい学べたのか、実感があまり湧かないことがあります。指導者ライセンスでは、労力や緊張感は半端なく大変なのですが、その分達成感と充実感があり、自分の指導の変化も感じることができました。
指導実技では10分から15分のレッスン生徒の演奏を変わらせなければならないので、日頃のレッスンでも一回目を通して弾く時に、より集中して聴くようになりました。たった1回聴いて、1か所でもきちんと指摘できると、生徒もハッとして集中して弾くようになりました。すると何曲もこなせるようになってきて、それまでいかに効率の悪いレッスンをやっていたかと思わされました。
また、先生も受検をするとなると、生徒も「受検どうだった?」と気にしてくれました。受験票を握りしめて早くから受検会場へ行き、何度もトイレへ行き…と、コンペティションを受けに行く生徒や保護者の気持ちがすごくよく分かりました。大人の指導者の私ですらこのような状態なのですから、初めてコンペティションを受ける子どもや親は…と思うと、生徒の気持ちにもっと寄り添ってあげないと、と思いました。
「目の前のことに全力を注ごう」と思うようになったのも、大きな変化の一つです。以前ならば「この子は〇〇だから仕方がない」と思っていた所もあったと思いますが、初めて会う子に10分間全力で指導する経験を通して、「今目の前の演奏」に全力を尽くしてレッスンをする、という姿勢が身につきました。初めての生徒さんへの体験レッスンも怖くなくなり、スムーズにレッスンに入れて、入会率も上がりました。
全級合格がスタートラインだと思っているので、これからもたくさんの先生方と交流して、切磋琢磨していきたいと思っております。