Vol.15 尾上理絵先生「在学中から受検を開始」(2018年度全級合格)
兵庫県伊丹市/正会員/2018年度全級合格
大学2年生の頃、高校生の時の恩師である石井なをみ先生に「将来指導者を目指すのならば絶対に役に立つし、演奏家としてもためになることがたくさんあるから」と、指導者ライセンスを勧めていただきました。将来は、指導者と演奏家との両立を考えておりましたので、受検することにしました。
まず最初は中級、そして上級の演奏実技から受け始めました。これはまさに大学で学んでいることと直結していましたので、あまり苦労することはありませんでした。その後、大学の方が忙しくなり、少し時間が空いてしまいました。大学院に合格して将来のことを現実的に考えるようになり、改めてピアノの指導をしていきたいと思うようになったので、社会人になってから「もっと勉強しておけばよかった」と後悔しないように、今のうちにと指導者ライセンスの勉強を再開しました。次に受けたのが筆記試験でしたが、こちらも大学で勉強していた内容に準じていましたので、さほど大変ではありませんでした。
一番大変だったのは、指導実技でした。初めて指導実技を受けた時は、まだ実際に生徒を持って指導をした経験はなく、指導法についても学んだことはありませんでした。
そのような状態で臨んだ指導実技は、「10分間がこんなに長く感じられたことはない!」というくらい戸惑った記憶があります。何を言ったらいいのだろうと焦り、生徒が不安にならないよう言葉を止めないようにするのに必至でした。実技後に審査員の先生方からアドバイスをいただけたことは本当に貴重な機会でした。特に印象に残っているのは、「緊張で生徒のことをちゃんと見ていない」と言われたことです。確かに、自分のことで頭が一杯になっていたのです。先生方から、「レッスンは自分が勉強してきたことを披露する場ではなく、生徒1人1人を見て、この子にとって何が必要か?この子はどう指導したらよいのか?をよく考えることが必要」ということや、「大学で学ぶことが全てではなく、特に初級の指導法の勉強が大切」などを教えていただきました。いたただいたアドバイスシートも何度も見返したり、ベテランの先生方のセミナーやレッスン見学に通って勉強し、何回か受検していくうちに、少しずつ慣れていきました。
指導実技の初回受検の後に実際の生徒の指導も開始しましたが、「教える前に一度指導実技を受けておいて良かった」と心から思いました。あの指導実技の機会は、若手指導者には絶対に必要だと思います。また、実際に初心者の指導を始めたことも、次のライセンス受検に生かされると感じたので、指導実技と実際の指導、両方に学びの相乗効果があったと思います。
私の言葉がけ一つで生徒さんの反応が変わって、良い方にも悪い方にも転がるということがよく分かり、レッスンでも生徒さん1人1人をよく見るようになったと思います。また、短い時間で生徒さんに必要なことを見極めてレッスンをしよう、という意識もライセンス受検を通じて高まったと思います。
大学2年生の時に受け始めてから全級合格まで、途中で2年程度のブランクがあったことで結局6年かかりました。その過程で、コンクールにも生徒さんを出場させることができるようになり、新人指導者賞をいただくこともできました。最初に声をかけてくださった石井なをみ先生に全級合格をご報告した所、「受検項目が多いから、最後まで取りきれる人はなかなかいない中で、よく頑張りましたね」と言っていただき、とても嬉しく、今後の励みになりました。
「まだ生徒もいないので指導者ライセンスなんて受けられない」と考えている音大生が多いと思いますが、私自身の経験を通して、学生のうちに是非受けて欲しいと感じました。特に指導実技は、働き始める前に受けた方が、指導者としての道を歩む場合にとてもスムーズにいくと思います。指導実技で得たアドバイス内容はもちろん、審査員の先生方に見られて指導するという極限の緊張状態での10分間を味わい、そして自分の成長を感じた後では、実際のレッスンに臨む時の自信が違うと思います。
指導者ライセンスの内容は、演奏家としての視野も広げてくれる機会になったと感じています。ライセンス受検で行ったアナリーゼなどは普段から実施していたつもりですが、教えるためにその楽曲について深く読み込み、しっかりと理解するという過程を経て、改めて分析の大切さを再認識しました。そして、子どもに教えることによって、自分の演奏にも大きく反映されることを感じています。ですから、まだ指導者の道で行くと決めていない人でも、ライセンス受検に挑戦する意義はあると思います。
最初は勇気がいりますが、はじめの一歩を踏み出せば、その後は受けやすくなりますので、若手指導者の方にも、将来のためにぜひ指導者ライセンスに挑戦してみていただきたいと思います。